書評
『りはめより100倍恐ろしい』(角川書店)
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
◎「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
主人公は中学時代にいじられていた経験を持つ高校一年生の〈俺〉。〈いじめなんかよりいじりのほうが全然怖いと思う。一文字違うだけだが、りはめより100倍恐ろしい〉と認識している〈俺〉は、バスケット部のチームメイトにいじられキャラであることがバレそうになると、仲間を生贄に差し出してでも保身を図るような腹黒いキャラクターなんである。が、やがて堪忍袋の緒が切れて、いじる側である強者に一泡吹かせる好計をめぐらせるのだが――。
そんな他愛もない話なんですの。タイトルにセンスを感じるのは素直に認めましょう。いじめに替えて「いじり」という現象を高校生活を描く軸にすえた工夫も認めましょうか。今の男子高校生の心情をリアルに描いているって説にうなずいたっていいですよ。だけど、なに? だから、なに? 「おばはんにはどーでもいいと思われる話だけど、キミたちには切実なんだよねー。学校生活で出川哲朗みたいに扱われるようになったら地獄なんだー。頑張ってねー」と励ませばいいとでも?
悪いけど、オデは励まさないよ。〈厳しい練習に果てたので脱水症状で倒れそうになったので着替える前に踊り場の自販機でジュースを買ってイッキ飲みしてきたので更衣室にはまばらにしか人がいなかった〉、こういう「ので」を幾つも重ねる文章を、「わざとそうすることでスピード感を出してるんだよね」なんて褒め殺したりしないよ。「野性時代」編集部みたいに、こんな程度の小説を〈強烈な口語体を飽くことなく連射する衝撃の新世代作家の登場〉なんてあおったりしないよ。悪いけど。起こったことや思ったことが一から十まで単純なフレーズで説明されていて、ジャニタレのへったくそな演技によってテレビドラマでも簡単に再現でき、二、三年も経てば賞味期限が切れてしまうような言葉だけで成立している小説を、認めるわけにゃいかんのよ。こんなもなあ、携帯で回し読んどけ! ごめんね、この小説の魅力がわからんクソババアでさっ。
【この書評が収録されている書籍】
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
◎「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
携帯で書いたのが売りだけど、なに? だから、なに?
第一回野性時代青春文学大賞受賞作『りはめより100倍恐ろしい』を読ませていただきました。作者は東京都の高校に通う十七歳男子。四百字詰め原稿用紙に換算すると、約二百五十枚分にあたる長さのこの作品の全文を携帯で執筆したのが売りで、帯にも〈すべてがケータイで書かれた世界初の小説〉と銘打たれておりますの。だけど、なに? だから、なに? 「へえ~、すごいねー、親指一本で小説書いちゃったんだー。えらーい」と感心してみせればいいとでも?主人公は中学時代にいじられていた経験を持つ高校一年生の〈俺〉。〈いじめなんかよりいじりのほうが全然怖いと思う。一文字違うだけだが、りはめより100倍恐ろしい〉と認識している〈俺〉は、バスケット部のチームメイトにいじられキャラであることがバレそうになると、仲間を生贄に差し出してでも保身を図るような腹黒いキャラクターなんである。が、やがて堪忍袋の緒が切れて、いじる側である強者に一泡吹かせる好計をめぐらせるのだが――。
そんな他愛もない話なんですの。タイトルにセンスを感じるのは素直に認めましょう。いじめに替えて「いじり」という現象を高校生活を描く軸にすえた工夫も認めましょうか。今の男子高校生の心情をリアルに描いているって説にうなずいたっていいですよ。だけど、なに? だから、なに? 「おばはんにはどーでもいいと思われる話だけど、キミたちには切実なんだよねー。学校生活で出川哲朗みたいに扱われるようになったら地獄なんだー。頑張ってねー」と励ませばいいとでも?
悪いけど、オデは励まさないよ。〈厳しい練習に果てたので脱水症状で倒れそうになったので着替える前に踊り場の自販機でジュースを買ってイッキ飲みしてきたので更衣室にはまばらにしか人がいなかった〉、こういう「ので」を幾つも重ねる文章を、「わざとそうすることでスピード感を出してるんだよね」なんて褒め殺したりしないよ。「野性時代」編集部みたいに、こんな程度の小説を〈強烈な口語体を飽くことなく連射する衝撃の新世代作家の登場〉なんてあおったりしないよ。悪いけど。起こったことや思ったことが一から十まで単純なフレーズで説明されていて、ジャニタレのへったくそな演技によってテレビドラマでも簡単に再現でき、二、三年も経てば賞味期限が切れてしまうような言葉だけで成立している小説を、認めるわけにゃいかんのよ。こんなもなあ、携帯で回し読んどけ! ごめんね、この小説の魅力がわからんクソババアでさっ。
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