書評

『くれなゐの紐』(光文社)

  • 2017/09/01
くれなゐの紐 / 須賀 しのぶ
くれなゐの紐
  • 著者:須賀 しのぶ
  • 出版社:光文社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(348ページ)
  • 発売日:2016-02-18
  • ISBN-10:4334910785
  • ISBN-13:978-4334910785

少年が少女ギャング団に!?

大正末期の浅草で、行方不明の姉を捜す少年が、女装して男子禁制の少女ギャング団に入る。ユニークな設定に引きつけられ、本の扉を開いたらもう戻れない。『くれなゐの紐(ひも)』は、竜巻のようにあっという間に、読者を物語の世界へ連れ去ってくれる。著者は冷戦下のドイツを舞台にした音楽青春小説『革命前夜』で大藪春彦賞を受賞したばかりの須賀しのぶ。

革命前夜 / 須賀 しのぶ
革命前夜
  • 著者:須賀 しのぶ
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(402ページ)
  • 発売日:2015-03-27
  • ISBN-10:4163902317
  • ISBN-13:978-4163902319
内容紹介:
ドレスデンの音大に留学した眞山はベルリンの壁崩壊に至る東ドイツの革命に立ち会う。音楽の力を感じさせる歴史エンターテイメント。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

主人公の仙太郎は、4年前に失踪した姉のハルの手がかりを求めて「浅草十二階」こと凌雲閣(りょううんかく)に通っている。女の格好をして掏摸(すり)を繰り返していた彼は、界隈(かいわい)を縄張りにする紅紐団の団長・操に捕らえられてしまう。操は優男に変装した女だった。しかもハルを知っているらしい。姉の情報を得るため、仙太郎は仁義なき少女ギャング団の一員となり、さまざまな事件に巻き込まれていく。

まず、なんといっても登場人物の造形がいい。カリスマ性と巧みな戦略で不良少女を束ねる操、売春組を統括する苛烈な副団長・倫子、魔法のような化粧術で男を女に変える絹、オペラが大好きな花売り娘のあや、そして〈もし飛び降りなきゃならなくなったら(中略)十二階から、人の海の中に景気よく飛び降りるわ〉と言って姿を消したハル…。アクの強い女たちに囲まれた仙太郎も、見た目は可憐(かれん)な美少女だが、頭の回転が速く度胸がある。ライバル組織の尻尾をつかむため、彼がタイピスト養成所に潜入するくだりは胸が躍った。

著者のインタビューによれば、当時の日本には少女ギャング団が実在したらしい。女性の人生の選択肢が今よりもずっと限られていた時代。紅紐団の面々は女同士で助け合い、賢(さか)しらな男どもを見事に出し抜く。実に痛快だが、それだけでは終わらないところが本書の真骨頂。

街を闊歩(かっぽ)する少女たちの孕(はら)む危うさが、後半になるにつれて明らかになるのだ。男として生まれた自分に罪悪感めいたものを抱く仙太郎が、ハルを捜すうちにいたる境地にも目を瞠(みは)った。エンターテインメントの形で、自由とは何かを問いかける一冊だ。
くれなゐの紐 / 須賀 しのぶ
くれなゐの紐
  • 著者:須賀 しのぶ
  • 出版社:光文社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(348ページ)
  • 発売日:2016-02-18
  • ISBN-10:4334910785
  • ISBN-13:978-4334910785

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初出メディア

産経新聞

産経新聞 2016年4月17日

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