書評
『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』(岩波書店)
まだ、学問や芸術が専門化し、細分化していなかった頃、すべてはマニュアルの問題だった。マニュアルは徒弟制度を通じて、踏襲されたが、工房からは稀にレオナルドのような天才が現われた。天才は自分を高く売るためにパトロンとなる諸侯を求めて、都市を移動した。靴屋の倅でも、おのが才能ひとつで階級のステップアップを図ることができた。その職業的、階級的モビリティの高さが、ルネサンス期の燗熟の背景をなす。
初めに画家として、その能力を高く買われたレオナルドだが、当時もっとも実証主義的だった医学の影響も受け、解剖の成果を絵画や彫刻に生かしたし、のちには兵器の発明や運河の設計も手がけている。芸術のための芸術を目指すより、封建君主の知恵袋となることを望み、政治にも深く関与した。そのせいか、手記にはパトロンの見つけ方から、ハッタリのかまし方、人品の見極め方など処世訓も数多く残されている。また、事物の観察には詩人のセンスも垣間見ることができるし、寓話に仕立てて見せる芸も細かい。左右一対の脳味噌でよくぞここまでヴァラエティに富んだことを考え抜いたものである。
【この書評が収録されている書籍】
初めに画家として、その能力を高く買われたレオナルドだが、当時もっとも実証主義的だった医学の影響も受け、解剖の成果を絵画や彫刻に生かしたし、のちには兵器の発明や運河の設計も手がけている。芸術のための芸術を目指すより、封建君主の知恵袋となることを望み、政治にも深く関与した。そのせいか、手記にはパトロンの見つけ方から、ハッタリのかまし方、人品の見極め方など処世訓も数多く残されている。また、事物の観察には詩人のセンスも垣間見ることができるし、寓話に仕立てて見せる芸も細かい。左右一対の脳味噌でよくぞここまでヴァラエティに富んだことを考え抜いたものである。
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