書評

『宇垣一成―政軍関係の確執』(中央公論社)

  • 2017/09/02
宇垣一成―政軍関係の確執  / 渡辺 行男
宇垣一成―政軍関係の確執
  • 著者:渡辺 行男
  • 出版社:中央公論社
  • 装丁:新書(246ページ)
  • ISBN-10:4121011333
  • ISBN-13:978-4121011336
内容紹介:
2.26事件以降、政治の主眼は陸軍を抑えること、あるいは協調におかれた。そして「宇垣なら」という待望論が絶えることはなかった。宇垣一成とは何者であったのか。力量・識見あふれる実力者だったのか。3月事件の影の主役である野心家であったのか。昭和12年、組閣の大命を受けながら陸軍中堅幹部の排斥工作によって遂に大命拝辞に追いこまれた真の理由は何か。新史料を駆使して波瀾の生涯を辿り、昭和史の謎に肉薄する。

“できすぎる人間”の悲劇

宇垣一成は、並の軍人ではなかった。それどころか、力量と識見とを充分に備えたできすぎた軍人であった。陸軍大臣・朝鮮総督として統治能力は折り紙つき。時折示される憲政や外交関係に関する認識も鋭くかつ深い。できすぎる人間は、それゆえに他から警戒され排除される。器にふさわしい働き場所が与えられない。これは一般論としても組織と人間をめぐる永遠のテーマである。

宇垣もまたその例外たりえなかった。戦前期日本を通じて常に首相の本命とみなされながら、ついにその地位に就くことができなかったからである。なんと、首相への就任を自らの出身母体である陸軍の組織をあげての抵抗と、宇垣に期待をかけた宮中勢力の意外なまでの消極的態度とによって阻まれたのだ。

一九二〇年代に陸軍軍縮と軍近代化をなしとげた宇垣の実行力は、三〇年代の陸軍にとってはうとましく、宮中にとっては充分に警戒を要するものとなった。軍官僚制化及び宮中官僚制化が進んだこの二つの組織にとって、強力なリーダーシップは忌避の対象以外の何物でもなくなってしまったのである。

このことは後年の二つの事例で、さらに実証される。第一は日中戦争時、近衛内閣外相としての日中和平工作である。宇垣の和平工作はかなり精力的に行われたにもかかわらず、結局近衛首相及び周辺のサポートを得られず、また興亜院設立という形での陸軍の妨害にあって挫折してしまった。

第二は四〇年代に入ってくり返し試みられる吉田茂の宇垣擁立工作である。この工作の常に障害となったのは、湯浅倉平、木戸幸一という宮中勢力に他ならなかった。

著者は宇垣の一生を網羅的にではなく、いくつかの論点に絞って取り上げてメリハリをつけている。なかでも激しい薩長対立の中での宇垣の陸相就任について次のように述べた点は印象的だ。「陸軍三長官会議という新例で陸相になった宇垣が、後年三長官会議という壁に阻まれて大命を拝辞するに至ったのは皮肉である」。

【この書評が収録されている書籍】
本に映る時代 / 御厨 貴
本に映る時代
  • 著者:御厨 貴
  • 出版社:読売新聞社
  • 装丁:単行本(305ページ)
  • ISBN-10:4643970472
  • ISBN-13:978-4643970470
内容紹介:
『吉田茂書翰』から『ゴーマニズム宣言』まで「日本」を知り、「自分自身」を知る140冊。気鋭の政治学者が放つ渾身の社会時評&読書ガイド。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

宇垣一成―政軍関係の確執  / 渡辺 行男
宇垣一成―政軍関係の確執
  • 著者:渡辺 行男
  • 出版社:中央公論社
  • 装丁:新書(246ページ)
  • ISBN-10:4121011333
  • ISBN-13:978-4121011336
内容紹介:
2.26事件以降、政治の主眼は陸軍を抑えること、あるいは協調におかれた。そして「宇垣なら」という待望論が絶えることはなかった。宇垣一成とは何者であったのか。力量・識見あふれる実力者だったのか。3月事件の影の主役である野心家であったのか。昭和12年、組閣の大命を受けながら陸軍中堅幹部の排斥工作によって遂に大命拝辞に追いこまれた真の理由は何か。新史料を駆使して波瀾の生涯を辿り、昭和史の謎に肉薄する。

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 1993年6月21日

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