1985年9月の最終回まで16年間で計803回放映。視聴率は平均で27・3%、最高50・5%。美術費予算が1回800万円という『全員集合』は地上波テレビの象徴だったにもかかわらず、論じた書物は多くない。本書はドリフを題材に、テレビ番組の本質に迫っている。
縦糸にはメンバーそれぞれの生い立ちから家庭事情、テレビ局の動向につき、膨大な雑誌資料の精緻な読み込みを時系列で配置。作家が事前に用意した台本はまず採用せず、独裁者としてコント内容を練り上げていく手法で瓜二つだった志村けんといかりや長介が「共演NG」を続ける師弟対決には息を呑む。
横糸には、ライバルたちのテレビ論が据えられる。ドリフの「コントを作り込み舞台を生中継」に対し、コント55号は浅草芸人らしい「アドリブ芸」。「欽ドン」では萩本欽一が「ドキュメンタリー手法」の素人いじりを取り入れ、「オレたちひょうきん族」は言葉の笑いを「カットと編集」で番組化、「加トちゃんケンちゃん」はカメラワークを凝らし「映像の笑い」を追求した。「志村の死によって日本の近代演劇の夢、その最後の灯が消えた」という問題提起まで、満腹の読後感だ。