書評
『グッバイ・ジャパン: 50年目の真実』(朝日新聞出版)
米特派員が見た開戦時日本
第二次世界大戦から半世紀がたち、戦争の時代ははるかかなたとの印象が強い。そこに一冊の興味深い本が公刊された。日米開戦直後アメリカで刊行された「グッバイ・ジャパン」の翻訳に、現時点での著者のコメントとインタヴューを付した同名の著書がそれである。著者はジョセフ・ニューマン。日米戦争前夜に「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン」の東京特派員を務め、東条内閣成立直前に帰米。その後も八十歳を過ぎた今日までアメリカの国際報道の第一線で活躍中のジャーナリストである。当時の外国の東京特派員の中では、著者だけがリアル・タイムの日本のレポートを公刊したという。したがって開戦当初のアメリカにおいて、日本を知るための恰好(かつこう)のテキストだったに相違ない。今になってみると、細部の記述には当然のことながら、かなりの荒っぽさもうかがえる。しかし全体を通して、著者の情報源であったいわゆる日本の親英米派の人々の認識枠組みをほぼ踏襲しているといってよい。
著者は、天皇制・軍部・財界の「汚れた三位一体」こそ、日本の権力の中枢であると考察する。しかしその上で、戦争を指導した軍部とそれを支持した財界とを悪玉にあげ、天皇については「憲法のなかでのみ最高司令官」「神聖な幻」と述べ、注意深く天皇の個人的責任を回避している。後の占領改革がこの三位一体をターゲットとしながらも、昭和天皇を免責したことを考えると、著者の記述の意味は重い。
驚くべきことに、著者は戦後一度も日本を訪れてはいない。半世紀前の著書の引き出し役となった伊藤三郎も、その点を疑問とする。確かに、国際的な情報と謀略の渦まく東京にあって、ジャーナリストとスパイとの区別は容易にはつかなかったであろう。ゾルゲグループの中心人物と親しかった著者の場合は、なおさらのことである。あらためて“情報”の価値と意味とを考えさせられる一書であった。