書評

『アメリカの世紀と日本――黒船から安倍政権まで』(みすず書房)

  • 2020/11/28
アメリカの世紀と日本――黒船から安倍政権まで / ケネス・B・パイル
アメリカの世紀と日本――黒船から安倍政権まで
  • 著者:ケネス・B・パイル
  • 翻訳:山岡 由美
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(520ページ)
  • 発売日:2020-09-03
  • ISBN-10:462208936X
  • ISBN-13:978-4622089360
内容紹介:
米国が世界の覇権を握った20世紀。米国と数奇な関係を結んだ日本はこれをどう生きたのか。米国随一の日本研究者 50年の集大成。

直視すべき悲痛な二国関係史

アジア太平洋戦争が終結した1945年には世界の約半分を占めていたアメリカの経済規模(GDP)が、2018年には25%に後退した。黄昏(たそがれ)を感じさせる数字だが、本書はこの期間を「米国による日本支配という異常な時代」と断言する。

著者は日本で受勲もした研究者。本書はワシントン大学で長年受け持った「戦後日本の浮上」という講座を踏まえ、ローズベルトが立てた異様な方針に端を発する日米の悲劇的なすれ違いを詳細に描きだしている。

アメリカにおいてはニクソンが大統領であった1970年前後から、同盟国である日本への不満が募り始めた。自衛隊は海外で活動しない、核兵器を持たない、年間防衛費はGNPの1%を超過しない等々の「九つの<ない(ノー)>」を金科玉条とし、対米輸出をテコに経済成長、それでいて自国市場は閉じている。ただ乗りではないか、というわけだ。以降現在に至るまで、日米間では「貿易差額」と「国力に見合った責任」をめぐり摩擦が続いてきた。

これまで日本側は、日本の貿易黒字は金融面でのアメリカの借り越しにすぎないといった説明をしてきたが、不満は収まらない。一方著者は、まったく別の側面に光を当てる。ローズベルトによる「理想論の暴走」と吉田茂の「老獪さの罠」とでも呼ぶべき応答が、今に至る両国関係を抜け出し難い枠に嵌(は)めてきたとみなすのだ。

20世紀初頭、両国はともに西欧の帝国主義に挑戦する新興国として台頭した。標榜する地域秩序構想は、アメリカが民族自決・軍備管理・門戸開放といった理想論(ウィルソン主義)、日本はみずからを盟主とするアジアの解放(大東亜共栄圏)であったが、相容れず真珠湾攻撃を誘発。翌1942年5月、ローズベルト大統領が対日方針として腹を固めたのが、「無条件降伏」であった。一切の和平交渉を行わず、降伏させた後には制度のみならず文化や国民性まで日本を自国に似せて改造するという、未曽有の戦争目標である。天皇の処遇も不明であったため日本は徹底抗戦に追い込まれ、事前警告や示威的使用もなく2発の原子爆弾が投下された。理想主義者は無慈悲であった。

ところが戦後、占領期に冷戦が始まると、共産主義への橋頭堡(きょうとうほ)とするためアメリカは日本に再武装を命じた。その矛盾を突いたのが、1951年の講和条約締結・占領終了と引き換えに、安全保障条約と米軍駐留、日米行政協定を受け入れた吉田茂首相であった。吉田は「裏経路」で社会党を説得してデモを焚きつけ、再軍備に向かえば政権交替もありうるという芝居を演じて、軍備をアメリカに押しつけた。以後、アメリカが同盟維持に圧力をかけるたびに日本側は憲法9条を持ち出し、押し返す光景が反復された。

占領しながら改造を諦め「逆コース」に向かうくらいなら、なぜ戦中に日本人の大量虐殺に踏み切ったのか、戦後には日本人自身に民主主義的な改革をさせなかったのかと著者はアメリカの読者に問う。

知日派による最大限の日本擁護だが、日本の市民にも、闘争によって勝ち取らなかった民主主義は「本物」ではないと手厳しい。いまを生きる我々に向けた、胸に迫る二国関係史である。
アメリカの世紀と日本――黒船から安倍政権まで / ケネス・B・パイル
アメリカの世紀と日本――黒船から安倍政権まで
  • 著者:ケネス・B・パイル
  • 翻訳:山岡 由美
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(520ページ)
  • 発売日:2020-09-03
  • ISBN-10:462208936X
  • ISBN-13:978-4622089360
内容紹介:
米国が世界の覇権を握った20世紀。米国と数奇な関係を結んだ日本はこれをどう生きたのか。米国随一の日本研究者 50年の集大成。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2020年10月10日

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