書評

『どろにやいと』(講談社)

  • 2017/10/16
どろにやいと / 戌井 昭人
どろにやいと
  • 著者:戌井 昭人
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(154ページ)
  • 発売日:2014-08-26
  • ISBN-10:4062191059
  • ISBN-13:978-4062191050
内容紹介:
万病に効くお灸を行商する男。山奥の村を訪れた彼を待っていたのは? 人生のおかしさ、哀しさを描く著者の真骨頂。芥川賞候補作。

山里で怪しげな男女に出会い…

森敦『月山』、太宰治『津軽』、井上ひさし『吉里吉里人』など、東北を舞台にした小説は多い。本書もまた、地名をタイトルに掲げてはいないが、山形県の出羽三山とおぼしき山が舞台となっている。「天祐子霊草麻王(てんゆうしれいそうまおう)」というお灸(きゅう)を売りながら各地を歩く行商人が、バスでしか行けない山里に入るや、怪しげな男女に次々と出会い、そこから脱出できなくなる。

どうやらそこは、明治以降の太陽暦的な時間が通じない固有信仰の息づいている世界のようだ。単に登場する村の男女が官能的であるだけではない。行商人が泊まった温泉宿の風呂場にせよ、村のはずれにあるお堂にせよ、まるで記紀神話を思わせる性の生々しさが、文章の行間から立ち上ってくるのだ。

実は私自身も20年以上前に同じ日本海側のある温泉町で、行商人と似たような体験をしたことがある。フィクションでありながら、どこか実話のようでもあるところが本書の魅力ではないか。

月山・鳥海山  / 森 敦
月山・鳥海山
  • 著者:森 敦
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:文庫(371ページ)
  • 発売日:2017-07-06
  • ISBN-10:4167908859
  • ISBN-13:978-4167908850
内容紹介:
月山の麓にある注連寺に居候した「わたし」は、現世と隔離されたような村で冬を越す。此の世ならぬ幽明の世界を描いた芥川賞受賞作。

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津軽  / 太宰 治
津軽
  • 著者:太宰 治
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(255ページ)
  • ISBN-10:4101006040
  • ISBN-13:978-4101006048

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吉里吉里人 / 井上 ひさし
吉里吉里人
  • 著者:井上 ひさし
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(501ページ)
  • 発売日:1985-09-27
  • ISBN-10:4101168164
  • ISBN-13:978-4101168166
内容紹介:
医学立国、農業立国、好色立国を掲げ、東北の一寒村が突如日本から分離独立した!SF、パロディ、ブラックユーモア、コミック仕立て、小説のあらゆる面白さ、言葉の魅力を満載した記念碑的巨編… もっと読む
医学立国、農業立国、好色立国を掲げ、東北の一寒村が突如日本から分離独立した!
SF、パロディ、ブラックユーモア、コミック仕立て、
小説のあらゆる面白さ、言葉の魅力を満載した記念碑的巨編。全三巻。
日本SF大賞、読売文学賞受賞作。

ある六月上旬の早朝、上野発青森行急行「十和田3号」を一ノ関近くの赤壁で緊急停車させた男たちがいた。「あんだ旅券(りょげん)ば持(も)って居(え)だが」。実にこの日午前六時、東北の一寒村吉里吉里国は突如日本からの分離独立を宣言したのだった。
政治に、経済に、農業に医学に言語に……大国日本のかかえる問題を鮮やかに撃つ、おかしくも感動的な新国家。

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どろにやいと / 戌井 昭人
どろにやいと
  • 著者:戌井 昭人
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(154ページ)
  • 発売日:2014-08-26
  • ISBN-10:4062191059
  • ISBN-13:978-4062191050
内容紹介:
万病に効くお灸を行商する男。山奥の村を訪れた彼を待っていたのは? 人生のおかしさ、哀しさを描く著者の真骨頂。芥川賞候補作。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2014年11月2日

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