書評
『これからお祈りにいきます』(KADOKAWA)
切実で崇高な行為 飄々とした筆致で
贔屓のチームの勝敗から天災まで、自分のカではどうにもならないことを目の当たりにすると、信心深くなくても神頼みをしたくなる。『これからお祈りにいきます』には、「サイガサマのウィッカーマン」と「バイアブランカの地層と少女」の二篇が収められている。いずれも自分ではない誰かのために祈る人たちの物語だ。切実で崇高な行為を謳い上げることなく、瓢々とした筆致で描いている。とくに「サイガサマのウィッカーマン」における神と人との関わり方は新鮮だ。主人公のシゲルが生まれ育った町で祀られているサイガサマは、諸願成就と引き換えに人間の体の一部を持っていく。うっかり大事な臓器をとって死なせることもある〈できない子〉だから、人々は冬至のお祭りのときに、持っていったら駄目なものを模型にして供物にするのだ。神様を〈できない子〉呼ばわりするところに笑ってしまうが、全知全能の神にはない親しみをおぼえる。
シゲルは、自分の吹き出物だらけの肌やうるさく話しかけてくる母、不登校の弟、不倫している父親、いばりくさったアルバイト先の職員などに怒ってばかりいる。祭りに対しても懐疑的で、世話好きでも正義感が強いわけでもない高校生が、不完全な神に他人の幸福を願う。その過程におためごかしが一切ないところが素晴らしい。
津村記久子の想像力はいつも経済的に困窮している人や社会的な立場が弱い人に向けられているが、物語のなかで救おうという傲慢さとは無縁だ。今の自分ができる範囲で、誰かが少し楽になったり、最悪の状況がちょっとでもましになる方法を真剣に考える。それが絶望から逃れる、たったひとつの冴えたやりかたなのだ。
週刊金曜日 2013年7月19日
わたしたちにとって大事なことが報じられていないのではないか? そんな思いをもとに『週刊金曜日』は1993年に創刊されました。商業メディアに大きな影響を与えている広告収入に依存せず、定期購読が支えられている総合雑誌です。創刊当時から原発問題に斬り込むなど、大切な問題を伝えつづけています。(編集委員:雨宮処凛/石坂啓/宇都宮健児/落合恵子/佐高信/田中優子/中島岳志/本多勝一)
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