書評
『草を褥に―小説牧野富太郎』(小学館)
「草を褥(しとね)に木の根を枕、花と恋して九十年」などと、自らをざれ歌に表現した牧野富太郎は、まさに植物学研究のためにこの世に生まれたような人だった。しかし、その牧野を支えるために生まれてきたような、妻寿衛子のことはほとんど知られていない。
牧野に関する従来の伝記とは異なり、本書は妻の苦闘にスポットをあてている。経済観念ゼロの夫にかわって質屋に通い、乳飲み子をかかえながら借金取りを撃退したり、待合を経営したりする。過労がたたって東京帝大の付属病院に入院するが、臨終のさいにも入院費が切れたため、情け容赦もなくシーツにくるまれ、ベッドから放り出されてしまった。
著者の大原富枝は昨年亡くなった。父親が少年時代、郷里の高知県佐川町の郷校で、牧野から教えをうけたことがあるという。最晩年の著者の、父祖への思いが牧野一族への関心と交錯し、単なる伝記以上に感銘深いノンフィクションとなっている。
【文庫版】
牧野に関する従来の伝記とは異なり、本書は妻の苦闘にスポットをあてている。経済観念ゼロの夫にかわって質屋に通い、乳飲み子をかかえながら借金取りを撃退したり、待合を経営したりする。過労がたたって東京帝大の付属病院に入院するが、臨終のさいにも入院費が切れたため、情け容赦もなくシーツにくるまれ、ベッドから放り出されてしまった。
著者の大原富枝は昨年亡くなった。父親が少年時代、郷里の高知県佐川町の郷校で、牧野から教えをうけたことがあるという。最晩年の著者の、父祖への思いが牧野一族への関心と交錯し、単なる伝記以上に感銘深いノンフィクションとなっている。
【文庫版】
朝日新聞 2001年4月8日
朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。
ALL REVIEWSをフォローする






































