書評

『ゾルゲの見た日本』(みすず書房)

  • 2017/09/24
ゾルゲの見た日本【新装版】 / リヒャルト・ゾルゲ
ゾルゲの見た日本【新装版】
  • 著者:リヒャルト・ゾルゲ
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(234ページ)
  • 発売日:2017-07-11
  • ISBN:4622086336
内容紹介:
〈もし私が平和な社会状態と、平和な政治的環境のもとに生きていたとしたら、たぶん私は学者になっていただろう――少なくとも諜報員になっていなかったことだけは確かである〉1930年代、日本を舞台に世界を変えた男、リヒャルト・ゾルゲ。スパイとして、ジャーナリストとして、知識人として、ゾルゲ… もっと読む
〈もし私が平和な社会状態と、平和な政治的環境のもとに生きていたとしたら、たぶん私は学者になっていただろう――少なくとも諜報員になっていなかったことだけは確かである〉

1930年代、日本を舞台に世界を変えた男、リヒャルト・ゾルゲ。スパイとして、ジャーナリストとして、知識人として、ゾルゲは戦前の日本、われわれが失いつつある「昭和」の時代に何を見たか。
「日本の軍部」、二・二六事件を鮮やかに描いた「東京における軍隊の叛乱」、研究と調査の結果にゾルゲの思いを記した「日本の農業問題」はじめ、ドイツの新聞の特派員、ナチス党員を装いながら、ドイツの雑誌に発表した日本についての論考6編に、獄中手記の一部である「日本における私の調査」を収録。さらに付録として、ナチス・ドイツのソ連侵攻、すなわち1941年6月22日のバルバロッサ作戦についての諜報をピークに、ゾルゲがモスクワに宛てた「秘密通信」を加えた。
巻末には、戦後の冷戦構造にまで影響をあたえた「ゾルゲ事件」の全体像を包んだ、小尾俊人「歴史のなかでの「ゾルゲ事件」」を付す。

構造的な矛盾 今も酷似

日本が戦争への道を歩んでいた一九三三年(昭和八年)、ドイツの一新聞記者として来日したリヒャルト・ゾルゲは、当時のソビエト共産党の指令のもと諜報(ちょうほう)活動をはじめた。八年後、日本の警察に逮捕され、連座した尾崎秀実とともに処刑されるが、本書はその間にナチ統治下のドイツの専門誌に寄稿した日本研究論文と、モスクワに送った秘密通信を主として構成されている。同じ版元から三十年以上も前に出版された「現代史資料」の一冊からの再録だが、読みやすく入手しやすい形としたところに意義がある。

最初の「日本の軍部」というリポートの冒頭で、彼は「日本の目下の情勢はその近世史上最も困難な一つである」と前置きし、産業の危機と矛盾、軍事支出による国家財政の圧迫という情勢にもかかわらず、日本には政治上の指導者がいないという。政府は力量も決意もない。政党は汚職と内部抗争のため退化し、官僚は無能である。国家社会主義的色彩をおびた若い組織は分裂し、中世的ロマン主義的陰謀にエネルギーを空費している。将来の変革に決定的役割を演じるのは軍部であろう、と予告する。

ゾルゲは学者的な資質があると自認していたが、これらリポートのいずれも場当たり的なものではない。当時の日本人は有識者といえども客観的な情報に接することができず、分析力も持ち合わせていなかった。かんじんなことは、これらの報告書にえぐり出された日本の構造的な矛盾が現代日本の状況と恐ろしいほど似ており、従って日本が間違いなく同じ道を歩んでいることを認識させることだ。現に政治経済の自己改革が進まず、官僚の不在が七十年前よりはるかに大きいという状況のもとで、頃合(ころあ)いをはかったように有事関運法などが成立している。

一見情報のあふれているように思える現在だが、わたしたちの自国を冷静かつ客観的に分析し、展望する能力が、往時に比してけっして高くなったとはいえないことを疑わせる一書である。
ゾルゲの見た日本【新装版】 / リヒャルト・ゾルゲ
ゾルゲの見た日本【新装版】
  • 著者:リヒャルト・ゾルゲ
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(234ページ)
  • 発売日:2017-07-11
  • ISBN:4622086336
内容紹介:
〈もし私が平和な社会状態と、平和な政治的環境のもとに生きていたとしたら、たぶん私は学者になっていただろう――少なくとも諜報員になっていなかったことだけは確かである〉1930年代、日本を舞台に世界を変えた男、リヒャルト・ゾルゲ。スパイとして、ジャーナリストとして、知識人として、ゾルゲ… もっと読む
〈もし私が平和な社会状態と、平和な政治的環境のもとに生きていたとしたら、たぶん私は学者になっていただろう――少なくとも諜報員になっていなかったことだけは確かである〉

1930年代、日本を舞台に世界を変えた男、リヒャルト・ゾルゲ。スパイとして、ジャーナリストとして、知識人として、ゾルゲは戦前の日本、われわれが失いつつある「昭和」の時代に何を見たか。
「日本の軍部」、二・二六事件を鮮やかに描いた「東京における軍隊の叛乱」、研究と調査の結果にゾルゲの思いを記した「日本の農業問題」はじめ、ドイツの新聞の特派員、ナチス党員を装いながら、ドイツの雑誌に発表した日本についての論考6編に、獄中手記の一部である「日本における私の調査」を収録。さらに付録として、ナチス・ドイツのソ連侵攻、すなわち1941年6月22日のバルバロッサ作戦についての諜報をピークに、ゾルゲがモスクワに宛てた「秘密通信」を加えた。
巻末には、戦後の冷戦構造にまで影響をあたえた「ゾルゲ事件」の全体像を包んだ、小尾俊人「歴史のなかでの「ゾルゲ事件」」を付す。

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初出メディア

北海道新聞

北海道新聞 2003年6月19日

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