書評
『終わりの街の終わり』(武田ランダムハウスジャパン)
トヨザキ的評価軸:
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
文芸誌「グランタ」が十年ごとに発表する「もっとも有望な若手アメリカ作家」に選ばれたケヴィン・ブロックマイヤーの『終わりの街の終わり』には、自分のことを記憶している人間が一人でも現世に存在していれば留まることのできる死者の街が登場する。でも、その街はどうやら縮みはじめているらしい。人口も減ってきている。なぜか。〈まばたき〉と呼ばれる人為的な伝染病によって、世界が滅亡へと向かっているから。ところが、にもかかわらず死者の街から消えない人々もいる。なぜか。コカ・コーラ社の仕事によって南極にいたおかげで、災いから逃れたローラの生存ゆえ。南極で一人サバイブしているローラが孤独のうちに思い出す、過去袖すり合わせた人たちとのエピソードが、死者の街に住まう人々のそれと重なり合う。ローラのイヤったらしい上司が、彼女が自分の家族や親戚に会ったことがないせいで死者の街で独りぼっちだと恨んだり、ローラの幼なじみが死者の街でローラがかつてほんの一時期つきあった男性と愛し合うようになったり、ローラと死者の街のシンクロ具合が絶妙なので、できる限り丁寧に読むことが、この小説をより愉しむコツと思う。それらを幾つ拾えているかが、読後の感動の多寡を左右するので。
死者の街という寓話と、世界の滅亡を描くデザスター小説、ふたつの読みごたえを備えたこの物語がもたらすのは、世界の消滅という悲劇を扱いながら、なぜか温かい感情だ。読みながら、わたしは亡くした人や猫たちがこの”終わりの街”にいる姿を想像し、いずれそこで彼らと再会できると思えば、死もそれほど不快なものでもないと思ったりもした。あと、コカ・コーラ社の器のでかさも思った。この小説における同社の扱いときたら……。訴訟を起こさないコカ・コーラ社は偉いよ!
【この書評が収録されている書籍】
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
なぜか温かい気持ちになる“世界の終わり”の物語
亡くした人や飼い猫たちのことをよく考える。その時、ごく自然に「今、何してるんだろう」と思っている。死んだんだから何をするもないだろうに。でも、それでもやっぱり「何してるんだろう」と思ってしまう。心がそこへ向かいたがる。そんな話をかつて坊主にしたことがある。そしたら坊主は「お経をあげるより何よりも、故人を思い出すことが一番の供養です」と言いやがった。以来「人は二度死ぬ。最初の死は肉体の喪失によって、二度目の死は忘却によってもたらされる」と考えるようになったんだけど、長じて少し知識を身につけるようになったら、それが世界各地の伝承や民話によって語り継がれている考えと知った。みんな同じようなことを考えるんだね。文芸誌「グランタ」が十年ごとに発表する「もっとも有望な若手アメリカ作家」に選ばれたケヴィン・ブロックマイヤーの『終わりの街の終わり』には、自分のことを記憶している人間が一人でも現世に存在していれば留まることのできる死者の街が登場する。でも、その街はどうやら縮みはじめているらしい。人口も減ってきている。なぜか。〈まばたき〉と呼ばれる人為的な伝染病によって、世界が滅亡へと向かっているから。ところが、にもかかわらず死者の街から消えない人々もいる。なぜか。コカ・コーラ社の仕事によって南極にいたおかげで、災いから逃れたローラの生存ゆえ。南極で一人サバイブしているローラが孤独のうちに思い出す、過去袖すり合わせた人たちとのエピソードが、死者の街に住まう人々のそれと重なり合う。ローラのイヤったらしい上司が、彼女が自分の家族や親戚に会ったことがないせいで死者の街で独りぼっちだと恨んだり、ローラの幼なじみが死者の街でローラがかつてほんの一時期つきあった男性と愛し合うようになったり、ローラと死者の街のシンクロ具合が絶妙なので、できる限り丁寧に読むことが、この小説をより愉しむコツと思う。それらを幾つ拾えているかが、読後の感動の多寡を左右するので。
死者の街という寓話と、世界の滅亡を描くデザスター小説、ふたつの読みごたえを備えたこの物語がもたらすのは、世界の消滅という悲劇を扱いながら、なぜか温かい感情だ。読みながら、わたしは亡くした人や猫たちがこの”終わりの街”にいる姿を想像し、いずれそこで彼らと再会できると思えば、死もそれほど不快なものでもないと思ったりもした。あと、コカ・コーラ社の器のでかさも思った。この小説における同社の扱いときたら……。訴訟を起こさないコカ・コーラ社は偉いよ!
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