書評
『大自然に生きる人びと―写真で見る民族学入門』(くもん出版)
極北、高地、草原、砂漠、熱帯ジャングル……世界各地の秘境と呼ばれる地域での、著者三十年にわたるフィールドワークの成果が、数多くの写真とともに、一冊にまとめられている。サブタイトルにもあるように、民族学の入門書として格好の、楽しくて興味深い本だ。
それぞれの土地に生きる人たちと生活をともにし、心を通いあわせながらのリポートは、非常に迫力があって、しかもあたたかい。次々と紹介される、各民族の生活に根ざした文化や知恵には、感心させられっぱなしだった。
たとえば、パミール高原キルギス族のフェルト作り。ヒツジの毛が縮んでからむ性質を利用して、スダレで巻いたり熱湯をかけたりして、板のようなフェルトを作り上げてしまう。赤く染めたヒツジの毛のロープで、模様をつけることもある。
あるいは、モリを使っての、カナダ・エスキモーの見事なセイウチ狩り。釘も縄も使わず作られる雪の家は、氷の性質を実にうまく利用している。
アラブの遊牧民が、スイカを冷やす方法などもおもしろい。水をふりかけ、灼熱の太陽に捧げると、水が蒸発するときの気化熱で冷えるという寸法。
必ずしも生きやすくない、厳しい環境のなかで、大自然とともに暮らす人びとの姿は、感動的だ。彼らにとってはあたりまえのことが、私にとっては感動的である、ということの意味をつきつめていくと、結局は著者の次の言葉にたどりつくのだろう。
「現代の文明社会をふりかえったとき、いかに私たちが動物としての能力を失ってしまっているか」
私たちは、なんとも便利になったこの文明社会で、あいかわらずせっせと働いている。
で、余暇を利用してお金をかけて「アウトドアライフ」や「手作りのナントカ」を楽しんだりする。
衣・食・住のほとんどすべてが自給自足の生活、と聞くとまことに大変そうだが、彼らにも結構余暇はあるそうだ。楽器を演奏し、歌い、踊る人びとの生き生きとした姿。弓矢や空中ブランコで遊ぶ子どもたちの笑顔。
本書を読み終えたとき、数年前日本で流行したある広告のコピーが、あらためて心によみがえってきた。「幸せってなんだっけ」。
【この書評が収録されている書籍】
それぞれの土地に生きる人たちと生活をともにし、心を通いあわせながらのリポートは、非常に迫力があって、しかもあたたかい。次々と紹介される、各民族の生活に根ざした文化や知恵には、感心させられっぱなしだった。
たとえば、パミール高原キルギス族のフェルト作り。ヒツジの毛が縮んでからむ性質を利用して、スダレで巻いたり熱湯をかけたりして、板のようなフェルトを作り上げてしまう。赤く染めたヒツジの毛のロープで、模様をつけることもある。
あるいは、モリを使っての、カナダ・エスキモーの見事なセイウチ狩り。釘も縄も使わず作られる雪の家は、氷の性質を実にうまく利用している。
アラブの遊牧民が、スイカを冷やす方法などもおもしろい。水をふりかけ、灼熱の太陽に捧げると、水が蒸発するときの気化熱で冷えるという寸法。
必ずしも生きやすくない、厳しい環境のなかで、大自然とともに暮らす人びとの姿は、感動的だ。彼らにとってはあたりまえのことが、私にとっては感動的である、ということの意味をつきつめていくと、結局は著者の次の言葉にたどりつくのだろう。
「現代の文明社会をふりかえったとき、いかに私たちが動物としての能力を失ってしまっているか」
私たちは、なんとも便利になったこの文明社会で、あいかわらずせっせと働いている。
で、余暇を利用してお金をかけて「アウトドアライフ」や「手作りのナントカ」を楽しんだりする。
衣・食・住のほとんどすべてが自給自足の生活、と聞くとまことに大変そうだが、彼らにも結構余暇はあるそうだ。楽器を演奏し、歌い、踊る人びとの生き生きとした姿。弓矢や空中ブランコで遊ぶ子どもたちの笑顔。
本書を読み終えたとき、数年前日本で流行したある広告のコピーが、あらためて心によみがえってきた。「幸せってなんだっけ」。
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朝日新聞
朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。
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