トルコ人の料理といえば、まず頭に浮かぶのは、羊の串焼きシシュ・ケバブである。このシシュはトルコ語で「串」あるいは「小剣」を意味するという。さすがに騎馬遊牧民の伝統をさかのぼって中央アジアにまで連なっている。
もちろん、こればかりがトルコ料理ではない。誰にでも身近な基本的な料理はスープである。代表的なのが、レンズ豆をすり潰して作るポタージュだが、トルコ式にはレモンを搾って食するらしい。また、トルコ料理の名物として目立つのはドルマという野菜の詰め物である。だが、なんといっても食卓の最高のご馳走(ちそう)は焼肉類であり、オスマン帝国最盛期のスルタンの食費は国庫中央の支出の2%以上もあったというから驚く。
本書はオスマン帝国研究の第一人者が描くトルコ名物料理案内である。といっても、無類の食通にして博学の著者は、食にまつわる様々な歴史上の出来事に蘊蓄(うんちく)を傾ける。まるで君府・イスタンブルの市場を歩き、トプカピ宮殿の台所をのぞいているような気にさせる。まさしく芳しい食卓のごとく、歴史書の名著の香りがただよっている。