書評

『空海 塔のコスモロジー』(春秋社)

  • 2017/10/09
空海 塔のコスモロジー / 武澤 秀一
空海 塔のコスモロジー
  • 著者:武澤 秀一
  • 出版社:春秋社
  • 装丁:単行本(254ページ)
  • 発売日:2009-03-30
  • ISBN-10:4393135458
  • ISBN-13:978-4393135457
内容紹介:
仏教にも造詣の深い建築家が、三重塔や五重塔、多宝塔の構造、さらに諸寺院の伽藍配置等も考慮しながら、高野山根本大塔に込められた空海の思想や宇宙観、独創性を探る。

なぜ私たちは高い建物が好きか

「塔」とはもともと、仏教用語であること。多宝塔もしくは大塔と呼ばれる、白い球面に和風の屋根をかぶせた塔は、日本独自のものであること。そこから本書は、始まります。

大塔をデザインし、高野山に建造したのは、空海でした。ではなぜ空海は、大塔を発想するに至ったか。建築家である著者は、インド、中国、そして日本の様々な塔を巡ることによって、空海の思想が大塔へと至った道筋を、平易な文章(これがありがたい)で解きあかしていきます。

舎利が収められた建築物が塔であるわけですが、インドにおいては、インド土着の思想が含んでいた生命的・性的イメージと合わさり、卵のような半球体の塔が造られました。が、中国ではその生命や性のモチーフとしての半球が避けられ、塔が細長くなっていった。さらに日本では、もともとあった巨木信仰と塔とが合体し、さらに細長い五重塔に……。

そこで空海は、インドで塔が持っていた生命的・性的なエネルギーを取り戻すために、日本において大塔をデザインしたのではないかと、著者は考えるのです。現存する唯一の古建築の大塔である根来寺大塔の写真を見ると、黒い瓦屋根の下に露出している白い半球部分(亀腹という)は、なまめかしく膨らんでいます。建築物とは人の思想が具現化したものであり、とするならばこの大塔を見た時の感覚は、空海という人に会った時の感覚とも似るのでは、と思えてきます。

仏塔のみならず、なぜ私たちは高い建物が好きなのか、ということを考えさせられるこの本。仏教における塔は、そこが宇宙の中心であり源であることを表し、人々が塔の周囲を回ることによって、世界との一体感を得るのだそうです。

だとしたら、今を生きる私たちが東京タワーに引き寄せられるような気持ちになるのも、やはり中心や源を求める気持ちからなのでしょうか。とはいえそれは、「宇宙の」ではなく、電波の源でしかないわけですけれど……。
空海 塔のコスモロジー / 武澤 秀一
空海 塔のコスモロジー
  • 著者:武澤 秀一
  • 出版社:春秋社
  • 装丁:単行本(254ページ)
  • 発売日:2009-03-30
  • ISBN-10:4393135458
  • ISBN-13:978-4393135457
内容紹介:
仏教にも造詣の深い建築家が、三重塔や五重塔、多宝塔の構造、さらに諸寺院の伽藍配置等も考慮しながら、高野山根本大塔に込められた空海の思想や宇宙観、独創性を探る。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2009年05月31日

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