書評

『文学王』(ブロンズ新社)

  • 2017/12/13
文学王 / 高橋 源一郎
文学王
  • 著者:高橋 源一郎
  • 出版社:ブロンズ新社
  • 装丁:ハードカバー(245ページ)
  • ISBN-10:4893090666
  • ISBN-13:978-4893090669
内容紹介:
夏目漱石からミラン・クンデラまで語り尽くして縦横無尽、前人未踏、抱腹絶倒の最新文芸評論集。
『文学王』というお茶目ですてきなタイトルがついているけれど、内容から言うと、著者は「読書王」だ。

誰かが何かを「おいしい!」と食べているのを見ると、こちらも食欲をそそられるもの。

著者は、本当においしそうに読んで見せる。そしてほんのちょっぴり味見させてくれる。

この「ちょっぴり」加減がまた絶妙で、本書を読み終えた人は、登場する本の何冊かを、さっそく本屋さんで探してしまうのではないかと思う。

といっても、単純な「名作のススメ」ではない。たとえば「読んだことはないけど名前はだれでも知っている日本文学の王者」として『金色夜叉』が紹介される。たしかに。恥ずかしながら、高校で国語の教師をしていた私も、読んでいない。お金に目がくらんだお宮に裏切られた貫一が、毎年涙で月を曇らせてやる、と悲しいセリフを吐く場面だけは、なぜか知っているのだけれど。そしてなんとなく彼に同情していた。

ところが、貫一のその他のセリフが、たった四つ紹介されるだけで、まあなんてイヤな男だろうとあきれてしまった。で、実は有名なこの場面から後がおもしろくて「完全に昼のテレビドラマです。くだらない、と思いながらもしっかり目は釘付けってやつ」なのだそうだ。

『新體詩抄』や『不如帰』などが、高橋流におちょくられているのを読むと、思わず吹き出してしまうが、そのあとにふと「時代と文学」について考えさせられたりもする。

日本文学を扱った章が、私には一番おもしろかったが、とりあげられるジャンルは多種多様だ。マンガ、カセットブック、現代詩……。海外文学も、古典的名著からまだ翻訳されていないものまであって、そそられる。なかには「アメリカ野球研究協会」の機関誌、なんていうのもある。守備範囲の広さにおいても、まさに「読書王」なのだ。

試験のために書名を暗記したような作品も、こんなふうに軽やかに手にとれば、ひょっとして面白いかもしれない。以前から知人に勧められていながら、つん読状態だった『即興詩人』を、私は試しに開いてみた。とたんに虜になっている。そんな嬉しいオマケつき。

たぶん読者それぞれの、これからの読書に、本書は新しい一ページを開いてくれるだろう。

黄色いプラスチックの匙が無数に投げられている表紙が、タイトルに負けずお茶目で、しかも意味深だ。

【文庫版】
文学王  / 高橋 源一郎
文学王
  • 著者:高橋 源一郎
  • 出版社:角川書店
  • 装丁:文庫(250ページ)
  • ISBN-10:4041844037
  • ISBN-13:978-4041844038

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【この書評が収録されている書籍】
本をよむ日曜日 / 俵 万智
本をよむ日曜日
  • 著者:俵 万智
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(205ページ)
  • 発売日:1995-03-01
  • ISBN-10:4309009719
  • ISBN-13:978-4309009711
内容紹介:
大好きな本だけを選んで、読んだ人が本屋さんへ行きたくなるような書評を書きたい-朝日新聞日曜日の書評欄のほか、古典文学からとっておきのお気に入り本まで、バラエティ豊かに紹介する、俵万智版・読書のススメ。

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文学王 / 高橋 源一郎
文学王
  • 著者:高橋 源一郎
  • 出版社:ブロンズ新社
  • 装丁:ハードカバー(245ページ)
  • ISBN-10:4893090666
  • ISBN-13:978-4893090669
内容紹介:
夏目漱石からミラン・クンデラまで語り尽くして縦横無尽、前人未踏、抱腹絶倒の最新文芸評論集。

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