書評
『ねらった椅子』(東京創元社)
さあ困った、困った。ジュリアン・シモンズは何を挙げればいいのかしらん? 彼はミステリ界きっての論客である。批評家であり、学者であり、伝記作家であり、英国ミステリ文壇の重鎮でもある。その功績は枚挙にいとまのないほどだが、さて小説を選ぶとなると、困るのだ。といっても、出来が悪いというわけではない。『二月三十一日』『紙の臭跡』『月曜日には絞首刑』といずれもひねりのきいたサスペンス小説だが、ひねる方向が変なので、印象がうすいのである。なかでお奨めは本書だろう。出版社の新雑誌編集長の座をめぐる殺人事件という題材が興味深いし、クライマックスのビルからビルへの綱渡りもスリリングでおもしろい。
【この書評が収録されている書籍】
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