書評
『神野悪五郎只今退散仕る』(毎日新聞社)
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
主人公は十三歳の少女・夕凪紫都子。まずは、この人物造型が◎。〈中学に入学してまもなく、「お前、案外、乳でかいじゃん」と言い出して厭な笑いをした男子に「おめえも金玉でかくしてやろうかぁ」と言って股間を蹴ったら泡を吹いた〉〈よく「女の子同士の」と言われる細かい心遣いが面倒でならない。(中略)愚痴でなくともいつまでもいつまでも纏わり付いてどうでもいい他人の噂話をされるのが厭だ。人のことよりお前がもっとしゃんとしろよ、と言いたくなる。それで実際に言うと激しく嫌われる。無神経と言われる。本当に無神経なのだから仕方ないと思う〉そんなステキに豪毅な十三歳なんであります。
で、この気持ちのいい女の子が、母方の祖母の時代からのミッションである最強最悪の怨霊のお祓いに、妖怪界の大ボス・神野悪五郎と共に挑むという物語になっているのですが、紫都子がミッションにふさわしい器かどうかを試すためにお化け屋敷で肝試しをする場面や、若き日の祖母と神野悪五郎のエピソードを経て大団円を迎える本作は、「これが俊英・高原英理の小説?」と驚くくらいの易しさと軽やかさ、キャラクター小説としてアニメ化に耐えるほどの面白さを備えているのです。
が、注意深く読む人には「やっぱり、さすが高原英理」という要素も発見できるはず。
〈わたしは、許さない。わたしの運命を許さない、わたしをこの間抜けな無価値な捨て石にしてしまったこの世界を許さない。(中略)呪う、呪う。わたしはこの、努力の報われない、貧しい役割ばっかり押しつけてくるこの世界を呪って死ぬからな〉
人を怨霊と化させるほどの恨み辛みを生むのが物語なら、それを癒し鎮めるのもまた物語である、そんな深遠な物語発生論が妖怪ファンタジーという器の中に品よく忍び込ませてあるのです。紫都子の妹・妙子が怨霊の荒ぶる魂を鎮めるために、物語を語り直してやる最終章の感動はひとしお。軽やかだけど軽薄じゃない。でもって、易しくて優しい。求む、シリーズ化!
 
 
【この書評が収録されている書籍】
 
 「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
軽やかだけど軽薄じゃない。易しくて優しい。求む、シリーズ化!
我が国のロココ王子が過日大麻所持で捕まった嶽本野ばらなら、高原英理はさしずめゴシック大王。『少女領域』(国書刊行会)や『ゴシックハート』(講談社)といった傑作評論集で知られるゴシックカルチャー&文芸の評論家にして、今後は小説家として飛ぶ鳥落とす勢いを勝ち得る予定の御仁なんであります。というのも、最新長篇小説の『神野悪五郎只今退散仕る』はいい意味でゴシックのくびきから解き放たれ、ポピュラリティの高い物語になっていて人気爆発必定だからです。主人公は十三歳の少女・夕凪紫都子。まずは、この人物造型が◎。〈中学に入学してまもなく、「お前、案外、乳でかいじゃん」と言い出して厭な笑いをした男子に「おめえも金玉でかくしてやろうかぁ」と言って股間を蹴ったら泡を吹いた〉〈よく「女の子同士の」と言われる細かい心遣いが面倒でならない。(中略)愚痴でなくともいつまでもいつまでも纏わり付いてどうでもいい他人の噂話をされるのが厭だ。人のことよりお前がもっとしゃんとしろよ、と言いたくなる。それで実際に言うと激しく嫌われる。無神経と言われる。本当に無神経なのだから仕方ないと思う〉そんなステキに豪毅な十三歳なんであります。
で、この気持ちのいい女の子が、母方の祖母の時代からのミッションである最強最悪の怨霊のお祓いに、妖怪界の大ボス・神野悪五郎と共に挑むという物語になっているのですが、紫都子がミッションにふさわしい器かどうかを試すためにお化け屋敷で肝試しをする場面や、若き日の祖母と神野悪五郎のエピソードを経て大団円を迎える本作は、「これが俊英・高原英理の小説?」と驚くくらいの易しさと軽やかさ、キャラクター小説としてアニメ化に耐えるほどの面白さを備えているのです。
が、注意深く読む人には「やっぱり、さすが高原英理」という要素も発見できるはず。
〈わたしは、許さない。わたしの運命を許さない、わたしをこの間抜けな無価値な捨て石にしてしまったこの世界を許さない。(中略)呪う、呪う。わたしはこの、努力の報われない、貧しい役割ばっかり押しつけてくるこの世界を呪って死ぬからな〉
人を怨霊と化させるほどの恨み辛みを生むのが物語なら、それを癒し鎮めるのもまた物語である、そんな深遠な物語発生論が妖怪ファンタジーという器の中に品よく忍び込ませてあるのです。紫都子の妹・妙子が怨霊の荒ぶる魂を鎮めるために、物語を語り直してやる最終章の感動はひとしお。軽やかだけど軽薄じゃない。でもって、易しくて優しい。求む、シリーズ化!
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