書評

『芸術を愛する一修道僧の真情の披瀝』(岩波書店)

  • 2017/09/12
芸術を愛する一修道僧の真情の披瀝  / ヴァッケンローダー
芸術を愛する一修道僧の真情の披瀝
  • 著者:ヴァッケンローダー
  • 翻訳:江川 英一
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(210ページ)
  • 発売日:1939-06-03
  • ISBN-10:4003245113
  • ISBN-13:978-4003245118
内容紹介:
目次 この書物の讀者に / p7ラファエロの幻影 / p11イタリアへの憧憬 / p19當時非常に有名な古い畫家、ロンバルディア派の始祖、フランチェスコ・フランチァの注目すべき死 / p23弟子とラ… もっと読む
目次
この書物の讀者に / p7
ラファエロの幻影 / p11
イタリアへの憧憬 / p19
當時非常に有名な古い畫家、ロンバルディア派の始祖、フランチェスコ・フランチァの注目すべき死 / p23
弟子とラファエロ / p33
フィレンツェ派の年少の畫家、アントニオが、ローマに在る友、ヤコボに宛てた手紙 / p41
フィレンツェ派の有名な祖先、レオナルド・ダ・ヴィンチの生に示された、天賦あり、その上深い學識ある畫家の典型 / p49
二つの繪の敍述 / p65
藝術に於ける、普遍性、寬容、人類愛に就ての若干の言葉 / p77
藝術を愛する一修道僧による、我等の畏敬すべき祖先、アルブレヒト・デューラーへの追慕 / p85
二つの不可思議な言語とその神祕な力に就て / p99
フィレンツェ派から出た古い畫家、ピエロ・ディ・コシモの奇行に就て / p105
地上の偉大な藝術家の作品は、本來、どのやうにして觀察され、又己が魂の福祉に用ひられねばならないか / p115
ミケランジェロ・ブオナロティの偉大さ / p121
ローマ在の若いドイツ畫家が、ニュルンベルグの友に宛てた手紙 / p129
畫家の肖像 / p139
畫家の記錄 / p149
音樂家、ヨゼフ・ベルグリンゲルの注目すべき音樂生活 / p167
解說 / p199

再読三読『芸術を愛する一修道僧の真情の披瀝』

ヴァッケンローダーはわずか二十五歳で夭逝したが、ドイツ浪漫派の精神そのものといってよい人である。枢密顧問官だった厳格な父親の意向で、法律家への道を歩まざるをえなかったが、その彼を支えたのは学友ルートヴィヒ・ティークの篤い友情と、ドイツ中世芸術、イタリア・ルネッサンス芸術に対する、あくなき憧憬の念だった。

ドイツ浪漫派は、フィヒテやシェリングの哲学、シュライエルマッヒェルの宗教学などを取り込みながら、ヴィルヘルムとフリードリヒのシュレーゲル兄弟が中心になって理論を構築、提唱し、運動を展開した文芸思潮である。ヴァッケンローダーは、そうした流れに乗るタイプではなかったし、またその立場にもなかったのだが、シュレーゲル兄弟の全仕事に匹敵するほどの強い刻印を、ドイツ文学史上に残した。

それは『芸術を愛する一修道僧の真情の披瀝』(岩波文庫)を一読すれば、よく分かる。ヴァッケンローダーには、父親の意にそむいてまで文学、芸術の道へ進むだけの勇気がなかったため、この処女作は匿名で出版された。実際には、ティークの筆も少なからずはいっているらしいが、ともかくここにあふれるアルブレヒト・デューラーやラファエロ、ミケランジェロなどに対する、ナイーブといってもよいほどの熱い想いは、浪漫派の本質を何よりも雄弁に物語っていよう。

こうした志向は、ギリシャ古典芸術に範を求めた、ヴィンケルマンやレッシングの古典主義に対する、きわめて個人的な抵抗であったろう。ヴァッケンローダーに、それを一つの運動として盛り上げようとする強い意志は、おそらくなかった。むしろその成果は彼の死後、遺志を継いだティークがシュレーゲル兄弟の運動に接近することによって、初めて統合されたとみてよい。もっともシュレーゲル兄弟は、ヴァッケンローダーが避けたギリシャ、ローマの古典研究から出発しているので、かならずしもたどった道は重ならない。その橋渡しをしたのは、よくいえば柔軟な発想の持ち主だった、ティークの功績といえるだろう。

この本の最後に、「音楽家、ヨゼフ・ベルクリンゲルの注目すべき音楽生活」の章がある。遺稿『芸術幻想』の中の「ヨゼフ・ベルクリンゲルの数編の音楽論稿」とともに、ヴァッケンローダーがベルクリンゲルに仮託して、自己の真情を吐露した貴重な告白である。これらの断想を読むと、月並みな言い方だが、人はパンだけでは生きられないことを、改めて思い出させてくれる。

【この書評が収録されている書籍】
書物の旅  / 逢坂 剛
書物の旅
  • 著者:逢坂 剛
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(355ページ)
  • 発売日:1998-12-01
  • ISBN-10:4062639815
  • ISBN-13:978-4062639811
内容紹介:
「掘り出し物」とは、高値のつくべき古本を安く探し出すことではなく、自分一人にとって、掛けがえのない価値のある本と出会うこと。世界一の古書店街、神保町を根城とする名うての本読みが、自信をもってすすめる納得の本、本、本。作品別の索引がついた、絶対に面白い本の読み方、楽しみ方を綴る書物エッセイ。

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芸術を愛する一修道僧の真情の披瀝  / ヴァッケンローダー
芸術を愛する一修道僧の真情の披瀝
  • 著者:ヴァッケンローダー
  • 翻訳:江川 英一
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(210ページ)
  • 発売日:1939-06-03
  • ISBN-10:4003245113
  • ISBN-13:978-4003245118
内容紹介:
目次 この書物の讀者に / p7ラファエロの幻影 / p11イタリアへの憧憬 / p19當時非常に有名な古い畫家、ロンバルディア派の始祖、フランチェスコ・フランチァの注目すべき死 / p23弟子とラ… もっと読む
目次
この書物の讀者に / p7
ラファエロの幻影 / p11
イタリアへの憧憬 / p19
當時非常に有名な古い畫家、ロンバルディア派の始祖、フランチェスコ・フランチァの注目すべき死 / p23
弟子とラファエロ / p33
フィレンツェ派の年少の畫家、アントニオが、ローマに在る友、ヤコボに宛てた手紙 / p41
フィレンツェ派の有名な祖先、レオナルド・ダ・ヴィンチの生に示された、天賦あり、その上深い學識ある畫家の典型 / p49
二つの繪の敍述 / p65
藝術に於ける、普遍性、寬容、人類愛に就ての若干の言葉 / p77
藝術を愛する一修道僧による、我等の畏敬すべき祖先、アルブレヒト・デューラーへの追慕 / p85
二つの不可思議な言語とその神祕な力に就て / p99
フィレンツェ派から出た古い畫家、ピエロ・ディ・コシモの奇行に就て / p105
地上の偉大な藝術家の作品は、本來、どのやうにして觀察され、又己が魂の福祉に用ひられねばならないか / p115
ミケランジェロ・ブオナロティの偉大さ / p121
ローマ在の若いドイツ畫家が、ニュルンベルグの友に宛てた手紙 / p129
畫家の肖像 / p139
畫家の記錄 / p149
音樂家、ヨゼフ・ベルグリンゲルの注目すべき音樂生活 / p167
解說 / p199

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初出メディア

小説新潮

小説新潮 1993年6月

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