書評
『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女』(早川書房)
亡くなった著者から引き継ぐ待望の最新作
本書の中心を成す人物リスベット・サランデルは、ミステリー史上最強のヒロインのひとりである。小柄で細身なのに、格闘に秀で、意志も強く、銃の扱いもコンピューターの扱いも世界一の腕前。サイバー攻撃などという小手先の技など使わず、大事なデータは秘密裏にごっそりいただき、どんな暗号をも解く天才であり、決して諦めない復讐(ふくしゆう)の鬼でもある。要するにめっぽう強くてかっこいいのだ。とはいえ、リスベットには最強の女性にならざるを得ない理由があった。幼年期から少女期にかけての彼女の人生を知りたい方は『ミレニアム1』から読んで、本書に突入していただきたい。世の多くの女性は、胸のすくような彼女の活躍を描いた『ミレニアム』シリーズを読むべきだとわたしは思っている。興奮と感動を味わえること請け合いだ。
タイトルの「ミレニアム」とは、世の中の不正義と闘う硬派な雑誌で、そこの取材記者であり経営者であるミカエルを中心に物語は展開していく。本来の主人公はこのミカエルなのだ。そして本書には人工知能研究において天才といわれる研究者が登場する。
最近スウェーデンに帰ってきたこの研究者は、離婚して親権を失った息子の危機を察知し、その継父から息子を奪いとる。8歳の息子は重度の自閉症だが、非常に珍しい能力が備わっていた。そのために、大手企業のデータをめぐって命を狙われている研究者とともに、その息子も命を狙われるようになる。コンピューター上でやりとりされるメッセージを介してしか繋(つな)がりを持たないリスベットが、どのように自閉症の少年と心を通わせていくかも本書の見どころである。
本来5まで続くシリーズが、著者スティーグ・ラーソンの突然の死で中断した。今回、新たな著者を得て4が発表された。
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