書評
『ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女』(早川書房)
通底する少数派への配慮
世界的なベストセラーとなったスウェーデンミステリーの第4弾。オリジナル原作者であるラーソン氏は、ヒットを知らないまま他界。本作は、その残されたプロットを別の作家(ジャーナリスト)が手がけた異色の続編だ。社会派ジャーナリストのミカエルとゴス系ファッションの女性ハッカーのリスベットという魅力的な主人公たちは、引き続き本作でも活躍する。前作までのミカエルは、巨大企業の犯罪を告発する英雄的なジャーナリストだった。だが、本作の最初の時点では、評判が地に落ちている。「左翼」で「時代遅れ」。実業界の足を引っ張る左派ジャーナリストは、むしろ国家的な経済成長を阻害する敵と目されているのだ。左派とジャーナリズムの信頼低下は、日本だけではないようだ。
本作で彼らは、人工知能学者の殺人現場で目撃者となった幼い息子を保護する。息子は知的障害者だが、驚くべき数学的才能と、見たものを映像として記憶する能力の持ち主。その能力の解明と、殺し屋たちとの攻防が同時に展開される。
シリーズの本質は、完璧に受け継がれている。主人公たちは、殺し屋や不正を行う企業といった悪との戦いと同じくらいの情熱を持って幼児や女性への虐待、障害者への差別などと闘う。ちなみに、リスベットは、バイセクシュアルであるなど、性的マイノリティーへの配慮はシリーズを通したテーマだ。
そう、こんな“意識の高さ”が本シリーズの特徴。ミカエルは、昨今ようやく知られるようになったポリアモリー、つまり複数の異性と包み隠さずに同時に性関係を持つライフスタイルを持つ性的マイノリティーに属する人物(今作ではその描写が抑えられているが)。さすがにスウェーデンと感心させられる。
朝日新聞 2016年2月7日
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