書評
『一汁一菜でよいという提案』(グラフィック社)
料理本のトレンド 時代に適応、常にヒット作
情報はネットという時代だが、料理レシピ本からは、常にヒットが生まれてくる。『一汁一菜でよいという提案』(グラフィック社・1620円)は、10万5千部のヒット。具だくさんの味噌(みそ)汁にご飯が基本。料理研究者の土井善晴はシンプルで丁寧な「食べ飽きないもの」を提唱する。
味の濃いレシピが検索上位にランクされる仕組みや蜂蜜を使った離乳食レシピが安全軽視と批判されるなど、大手レシピサイトが見失いつつある部分を受け止めている。
一方、食のシンプル志向は、高齢化時代、「孤食」時代のものでもある。
料理家・小田真規子の『まいにち小鍋』(ダイヤモンド社・1188円)は4万部。これを企画した編集者は「共働きでばらばらに食事をとることが多いという自らの生活」を顧みて着想を得た。
家族生活が多様化する中で、「個食」に「ホッコリ」と「ヘルシー」をもたらす「小鍋」は支持されるはず。その目論見(もくろみ)は当たった。一人暮らしを始めたばかりの独身書店員が本に共感し、店頭でプッシュしてくれたのだ。
料理レシピ本は、流行が激しく変化する分野だ。昨年9月に発表された「料理レシピ本大賞」では、受賞作12点中4点が「つくりおき」系。明確なトレンドが発生する。
傾向の変化と同時に口コミメディアの変化も見てとれる。「キャラ弁」や「彼ごはん」の流行はブログが生んだもの。それが今はインスタだ。
ネットでは、料理名からレシピを検索するのではなく、アップされたできあがりの料理画像から料理を選ぶ。写真を真似(まね)て作り、SNSにアップするのが目的なのだ。
店頭でも「インスタの影響か色が濃くて鮮やかな料理本」が売れゆきがいいと都心の書店の担当者。ネットでのユーザーの動向をレシピ本の仕掛け人たちは見逃さない。
料理レシピ本の書棚からは、社会や家族の変化、ネット時代に適応したマーケティング、流されず伝統へ回帰する思想などさまざまなものが見えてくる。
朝日新聞 2017年05月07日
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