書評
『世界のおばあちゃん料理』(河出書房新社)
写真家が世界中を旅して、幸福な味と出会う
なんと幸福な本だろう。料理写真集であり、女性のポートレート集であり、各国のレシピ集であり、人生の断片を描く物語集でもあり、旅の記録でもある。多彩な要素が万華鏡のよう、無名の女性たちとその料理がまぶしい。邦題は『世界のおばあちゃん料理』。少々枯れた印象を受けがちだけれど、原書のメインタイトル『IN HER KITCHEN』に、エネルギッシュな姿を感じる。何十年にもわたって家族の胃袋をつかまえ続ける年季の入った腕前は、かくも女性に魅力と存在感を与えるのだ。ページをめくりながら誇らしい気持ちになってくるのは、ほがらかで力強い写真の力だ。
著者のイタリア人写真家、ガブリエーレ・ガリンベルティは1977年生まれ。プロフィールを見ると、2002年、イタリアで最も期待されるカメラマンに選ばれたというから気鋭の人物のようだ。本書は、そのユニークな発想と行動力あってこそ。カメラとパソコンと日記以外持たず、二年近く五十カ国以上を「カウチサーファー」として旅を続け、週一度、写真と記事をイタリアの雑誌に発表してきた集大成である。
右ページ、58人の“おばあちゃん”たちの佇(たたず)まいが素敵(すてき)だ。使い馴(な)れたキッチンで、これから作る料理の材料を前にして、にっこり。背景に目を凝らせば、日常の暮らしぶり、文化、歴史、家族の姿……溢(あふ)れんばかりの「情報」に満ちている。すぐ左ページには、俯瞰(ふかん)でとらえたシンプルな料理写真。会話の声、鍋の音、湯気や匂いまで漂ってきてたまらない。
タマシイを奪われる料理が続々と登場して、うずうず。
■食べたくてすぐ作った料理
ノルウェー、シノーヴェ・ラスムッセンさん(77歳)のキョツパ(アイスランド風牛肉と野菜のスープ)。丁寧でシンプルなレシピ、完璧でした!
■食べたくて夢に出てきた料理
コロンビア、アナ・トゥーリア・ゴメスさん(69歳)の卵と牛肉のアレパ。地元で「揚げ物の女王」と異名をとる黄金の揚げ物に悩殺された。
■作りたくても作れないので歯ぎしりした料理ナンバーワン
アラスカ、スーザン・ソアセンさん(81歳)のムースの肉のステーキ。(「ここではムースの肉の9割は、追いかけなくても手に入るの。よく車でぶつけちゃうのよ。(中略)運が悪いと、車がぺしゃんこよ!」)
■ずっと知りたかった作り方がわかってコーフンした料理
ジンバブエ、フラタール・ヌクベさん(52歳)のサザ。白とうもろこし粉を練ってつくる、イタリアのポレンタに似た一品。白い皿の右半分に純白のサザ、左半分に濃緑色かぼちゃの葉のピーナッツバター炒め。この料理、かっこよすぎる。
■次に作ろうと決めている料理
ドイツ、ドリス・ラッセルさん(86歳)のアルメ・リッター(「貧しい騎士の食事」と名前がついたフレンチトースト)。
……きりがない。未知の味に魅了されつつ、ふと自分の家族の食卓の歴史にも思いを馳せる。人は、家族は、食べものでできている。その系譜のおおもとにいるのが“おばあちゃん”。
著者の人柄までいきいきと伝える訳文の魅力も存分に味わってほしい。
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