書評

『人生の段階』(新潮社)

  • 2017/12/06
人生の段階 (新潮クレスト・ブックス) / ジュリアン バーンズ
人生の段階 (新潮クレスト・ブックス)
  • 著者:ジュリアン バーンズ
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(151ページ)
  • 発売日:2017-03-30
  • ISBN:4105901362

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

ひとつの悲しみから生まれたもの

喜びはアイスクリームのように一瞬で消えてしまうが、悲しみはあまりに堅い。だから人はひとつの悲しみを噛みくだき、のみこみ、消化しながら、いくつもの歌を考え出す。そんな詩があったのを思い出した。『人生の段階』はブッカー賞を受賞した『終わりの感覚』などで知られる英国の作家が、妻の死についてさまざまな思いをめぐらせる物語だ。

終わりの感覚 (新潮クレスト・ブックス) / ジュリアン バーンズ
終わりの感覚 (新潮クレスト・ブックス)
  • 著者:ジュリアン バーンズ
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:ペーパーバック(188ページ)
  • 発売日:2012-12-01
  • ISBN:4105900994

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第1部は19世紀末の気球ブームの話で始まる。宙に浮かぶものなら何でも乗りたがり〈気球乗り〉と呼ばれたイギリス軍人、空中でフォアグラのオープンサンドを作りシャンパンを飲んだフランス人女優。史実では別々の気球に乗っていたふたりが、もしどこかで出会っていたら?

第2部ではありえたかもしれない恋が描かれる。〈これまで組み合わせたことのないものを、二つ、組み合わせてみる〉ことによってあらわれる世界は、新鮮で美しい。しかし飛翔は墜落と背中合わせであることがやがて明らかになる。

軍人が味わった心の墜落は、第3部で「私」が妻を亡くしてから現在にいたるまでの記憶につながっていく。「私」は死を別の言葉に置き換えることに疑問を抱き、悲しみは乗り越えられるという励ましに反発し、友人とも共有できない、自分だけの喪失を咀嚼し続ける。

〈誰かが死んだという事実は、その人がいま生きていないことを意味するかもしれないが、存在しないことまでは意味しない〉と考え、絶えず妻に話しかけていた「私」が、ある限界に気づくくだりは痛切だ。〈妻一人を失うことで、毛色のちがう仲間を何人も失った〉とはどういうことか。ひとつの悲しみから生まれた思索の深さと言葉の豊かさに圧倒された。
人生の段階 (新潮クレスト・ブックス) / ジュリアン バーンズ
人生の段階 (新潮クレスト・ブックス)
  • 著者:ジュリアン バーンズ
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(151ページ)
  • 発売日:2017-03-30
  • ISBN:4105901362

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初出メディア

週刊金曜日

週刊金曜日 2017年4月21日

わたしたちにとって大事なことが報じられていないのではないか? そんな思いをもとに『週刊金曜日』は1993年に創刊されました。商業メディアに大きな影響を与えている広告収入に依存せず、定期購読が支えられている総合雑誌です。創刊当時から原発問題に斬り込むなど、大切な問題を伝えつづけています。(編集委員:雨宮処凛/石坂啓/宇都宮健児/落合恵子/佐高信/田中優子/中島岳志/本多勝一)

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