書評
『新版 古事記 現代語訳付き』(角川学芸出版)
【名著 味読・再読】日本の原点は『古事記』
「島国根性」や「農耕民族」など、よくある日本文化論は信用しないようにしている。「日本的経営」はその最たるものだ。長期雇用や年功序列にしても文化というには底が浅い。戦後の高度経済成長期に適合したシステムとして定着しただけだ。明治時代の日本は金融資本主義的で労働流動性の高い社会だった。今と逆である。「ギリシア神話」が欧州の精神文化を伝える古典だとすれば、日本には『古事記』がある。歴史書というよりも神話だが、鮮烈に描かれる物語を通して、日本の原点を肌で感じる。国の正史である『日本書紀』よりもテンポがよく、躍動感がある。今日の浅薄な日本文化論ではなく、まずは虚心坦懐に本書を読むことを勧める。中村啓信氏の現代語訳が付いた版が読みやすい。ALL REVIEWSをフォローする