書評
『カリブ海の海賊たち』(新潮社)
少年時代のイメージそのままの話
れっきとした犯罪でありながら、海賊にかぎって許せてしまう、どころか、あこがれさえするのはどうしてだろうか。ディズニーランドの大人気出しものの一つに“カリブの海賊たち”というのがあって、黒地にドクロの旗を掲げた帆船が島かげから急に現れたり、大砲をブッ放したり、頭にハンカチを巻いた片目の海賊やらヒゲをはやした船長やらが金銀宝石金貨のこぼれる宝箱を前に飲めや歌えの大宴会を繰り広げるが、ああいう作り話みたいな光景はすべて本当のことだった、とこの本には書いてある。
黒地にドクロの旗なんて映画用の工夫と思いきや、海賊ラカムはドクロに剣、海賊船長ロバーツはドクロの上に立つ船乗り、というぐあいに具体的図柄まで掲げられては信じるしかない。
しかし、すべてが少年の頃に『宝島』を読んでイメージしたとおりかというと若干のズレはあって、たとえば海賊が財宝をどっかに埋めて隠すなんてことは絶対にしなかったし、例の”黒ヒゲ船長”の本当のヒゲの様子は、「ばかばかしいまでの長さにのばし、それを何十ものおさげに編んで、リボンを結び、耳の上にたくしあげていた。戦闘がはじまると、彼は、硝石にひたしたゆっくりともえる大麻を、編み毛や帽子の下に結びつける。それが顔の両がわでもえると、もともとこわく、血走った彼の目が、円をえがく煙の中から怪しく光って」というようなしろものだった。
そうした小さなズレはあるにしても、ほぼ少年時代のイメージどおりというのはうれしい。
たとえば、敵に対しては生きたまま腹を裂いて腹ワタを立ち木に釘で打ちつけるような残虐はしても仲間うちはほとんど少年団みたいなもので、海賊団ごとにルールが成文化されており、その内容はきわめて民主的で、たとえばラウザ船長の海賊団の場合、「船長の分け前はふつうの者の二倍」、「交戦のとき四肢の一部を失った者は一五〇ポンドの額を支給され、適当と判断されるかぎり、仲間とともにとどまってよい」、「最初に(獲物の)帆を見つけた者は、その船で得られる最上のピストル、または小火器を与えられる」、といった約束が交わされていた。
こうした海賊は、カリブ海を植民地支配するスペイン、ポルトガルに対し、イギリス、フランス、オランダの後発国が正規の軍隊の代わりに使った道具にすぎないことは今日の世界史の常識だが、著者のブラックはそうした国際政治的背景をちゃんと押さえながら、しかし“そらみたことか海賊だって実は”といった言い方をしないのがうれしい。カリブ生まれのカリブ育ちの歴史家らしく、“カリブの海賊たち”の立場から海賊を描いている。
とりわけ面白いのは、アンとメアリという二人の女海賊の生涯を描いたところだが、女海賊の存在についてはさしものディズニーランドも知らなかったらしく、登場させていない。
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