書評

『船乗りサムボディ最後の船旅』(講談社)

  • 2018/02/02
船乗りサムボディ最後の船旅〈上〉 / ジョン・バース
船乗りサムボディ最後の船旅〈上〉
  • 著者:ジョン・バース
  • 翻訳:志村 正雄
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(435ページ)
  • 発売日:1995-06-00
  • ISBN-10:4062054442
  • ISBN-13:978-4062054447
内容紹介:
最高におもしろい現代版シンドバッドの物語 現代アメリカから中世バグダッドへ漂着した主人公。荷担ぎシンドバッドと六夜にわたる宴会の席で、お互いの六つの航海譚を競い合う。超一級のメ… もっと読む
最高におもしろい現代版シンドバッドの物語


現代アメリカから中世バグダッドへ漂着した主人公。荷担ぎシンドバッドと六夜にわたる宴会の席で、お互いの六つの航海譚を競い合う。超一級のメタフィクション。

ジョン・バースから『船乗りサムボディ最後の船旅』のゲラをもらったのは5年前だった。家に持ち帰り、およそ1週間、一心不乱に読み続けた。忘れることのできぬ至福の読書の時間だった。そして、ぼくは確信したのだ。これは、遥か遠くまで行ってしまった現代文学そのものが、後ろのぼくたちを振り返りながら歌ってくれた、あまりにも優雅で、あまりにも哀しみに充ちた白鳥の歌であると。ミスター・バース、この作品をありがとう!――高橋源一郎

現代文学(作家)は超大変、だよね

いま、ぼくはEASTEND×YURIの「DA・YO・NE」を聞きながら、原稿を書いている。(事務局注:本書評執筆は、1994年頃)

「いつも 忙しいしか言わないし ベル打っても返事はなっしー だっしー 何か怪っしーけど二人の時は 超やさっしーの お前が一番だよって 言ってくれるのいいでしょう(あーっ、それって二番も確実にいるな、うん!)だよね」

いや、現代日本の口語がここまで歌になるのかと思うと、誠に感慨深いものがある。それに「ベルを打つ」なんて言葉、ちょっと前まで存在しなかったんだものなあ。それと「超やさしい」の「超」の使い方も、ほんとに広まりました。ぼくもしょっちゅう使ってることだっしー。

以前、ジョン・バースが日本に来た時、若者の日本語に「スーパー・チャーミング」(超カワイイ)とか「スーパー・ストレンジ」(超ヘン)という言い方が出現したと話したら、さっそく「スーパー・ロングピース(超長編)を書くのはスーパー・ディフィカルト(超大変)だよ」と真似てくれました。ほんとバースは超お茶目(スーパー・ミスチュヴァス)なんです。

その時、バースが持っていたのが六月にようやく翻訳された『船乗りサムボディ最後の船旅』(志村正雄訳、講談社)のオリジナルのゲラ刷り。実は、来日前にゲラを送ってもらって読んでいたのだが、来日した時彼が持っていたゲラはさらにドンと量が増えていて、びっくり。

「別に増やそうと思ってるんじゃないんだが、小説の方が勝手に増えていくんだよ。わかるだろ」

「わかります、ミスター・バース。でも、ぼくにはできない芸当ですけど」

だよね。

ジョン・バースの紹介は省略。たぶん、世界でいちばん小説(それも長編小説)について考えている作家。

「タカハシくん。ぼくは、自分の小説のポピュラリティについて疑問は持ってない。どの作品も基本的に面白いもののはずだ。批評家は『前衛的』だとかレッテルを貼りたがるけどね。あのレッテルは止めて欲しいね。読者が本を手にとるのをこわがるじゃないか」

だよね。

「先ほど、ミスター・タカシ・ノザキと話をしたよ。ミスター・ノザキはわたしの『酔いどれ草』とサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』の両方を翻訳したんだそうだね。わたしはどちらも眺めたが、素晴らしい訳のようだった。これで、わたしに日本語が読めれば最高だったんだが、まあ、それは些細なことだから気にしなくてもかまわないだろう。しかし、ミスター・ノザキの名訳をもってしても、わたしの『酔いどれ草』はサリンジャー氏のものほどは売れないみたいだ」

だよね。

「そうそう、日本に来てもまた同じ質問を食らっちゃったよ。どうして、いつもシェエラザードのことばかり書くんですか。他に書くことはないんですかってさ。日本のシショーセツ作家は自分の人生のことばかり書くそうじゃないか。シェエラザードの語る世界はずっと広いと思うんだが」

だよね。

以上は、パーティ会場でミスター・バースが洩らした言葉。ちなみに、冒頭で引用した「DA・YO・NE」、この「彼」を「読者」、ひたむきな彼女を「現代文学(作家)」と考えて、もう一度読み直してくださいませ。ああ、現代文学(作家)はつらい。

だよね。

【この書評が収録されている書籍】
いざとなりゃ本ぐらい読むわよ / 高橋 源一郎
いざとなりゃ本ぐらい読むわよ
  • 著者:高橋 源一郎
  • 出版社:朝日新聞社
  • 装丁:単行本(253ページ)
  • 発売日:1997-10-00
  • ISBN-13:978-4022571922
内容紹介:
どんな本にも謎がある。世界一の文学探偵タカハシさんが読み解く本の事件簿、遂に登場。

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船乗りサムボディ最後の船旅〈上〉 / ジョン・バース
船乗りサムボディ最後の船旅〈上〉
  • 著者:ジョン・バース
  • 翻訳:志村 正雄
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(435ページ)
  • 発売日:1995-06-00
  • ISBN-10:4062054442
  • ISBN-13:978-4062054447
内容紹介:
最高におもしろい現代版シンドバッドの物語 現代アメリカから中世バグダッドへ漂着した主人公。荷担ぎシンドバッドと六夜にわたる宴会の席で、お互いの六つの航海譚を競い合う。超一級のメ… もっと読む
最高におもしろい現代版シンドバッドの物語


現代アメリカから中世バグダッドへ漂着した主人公。荷担ぎシンドバッドと六夜にわたる宴会の席で、お互いの六つの航海譚を競い合う。超一級のメタフィクション。

ジョン・バースから『船乗りサムボディ最後の船旅』のゲラをもらったのは5年前だった。家に持ち帰り、およそ1週間、一心不乱に読み続けた。忘れることのできぬ至福の読書の時間だった。そして、ぼくは確信したのだ。これは、遥か遠くまで行ってしまった現代文学そのものが、後ろのぼくたちを振り返りながら歌ってくれた、あまりにも優雅で、あまりにも哀しみに充ちた白鳥の歌であると。ミスター・バース、この作品をありがとう!――高橋源一郎

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

週刊朝日

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