書評

『日本精神史』(講談社)

  • 2018/03/01
日本精神史 / 長谷川 宏
日本精神史
  • 著者:長谷川 宏
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(506ページ)
  • 発売日:2015-09-10
  • ISBN-10:4062194619
  • ISBN-13:978-4062194617
内容紹介:
縄文時代の巨大建造物から江戸末期の『東海道四谷怪談』まで、日本の思想と文化を「精神」の歴史として一望のもとにとらえた快著!

精神の連続として読む 目からウロコの日本史

精神というものは非常に大事なもので精神がないと困ることも多いはずだが、じゃあ、具体的にどう困るのか、と聞かれるとはっきり答えることができない。それに比べて肉体の方はわかりやすい。というのはそらそうだ、肉体がなければご馳走を食べてうまいと思うこともできないし、気に入った服を着ることもできないし、ご婦人と共同して愉快なことをすることもできない。

けれどもそうしたことをする際、肉体が単独で作動しているかというと、そんなことはなく、必ず精神も同時に作動していて、そのサポートがないとそれらのことを円滑に行うことができない。それが証拠になにかの理由でぶっ壊れると、にぎり寿司をバナナシェイクに浸して食べ、ウマイー、と泣き叫んだり、盆踊り会場に毛皮で拵(こしら)えた浴衣を着て現れジャズダンスを踊るなどしてしまう。

という訳で肉体と違って目で見たり寸法を測ったりすることができないでなんだかよくわからないのだけれども、精神というものは重要なものである。

それで2015年12月26日から16年1月4日にかけて一冊の本を読んでいた。『日本精神史(上〉』(講談社、2800円)という本である。著者である長谷川宏は、精神とはなにか、について、「人間が自然とともに生き、社会のなかに生きていく、その生きる力と生きるすがたが精神」と定義づけ、そのうえで精神は、「一人の人間のうちにも、小集団のうちにも、もっと大きな集団や共同体のうちにも見てとれる」として、それら、「さまざまな精神の連続と変化のさまを一つの大きな流れとして縄文時代から江戸時代までたどること」を眼目とし、そのうち、縄文時代から鎌倉時代あたりまでを取り上げたのが上下巻のうちの上巻である(うち中世のことは下巻にも及ぶ)。

そしてその素材としては美術、思想、文学の範疇(はんちゅう)に属する文物・文献が選ばれる。章立てに即して具体的に言うと、火炎土器、土偶、写経、阿修羅(あしゅら)像と鑑真和上像、仏師・運慶。そして、三内丸山遺跡、銅鐸(どうたく)、古墳、仏教の受容、最澄と空海と『日本霊異記』、浄土思想の形成、東大寺の焼亡と再建、法然と親鷲(しんらん)、『正法眼蔵』そして、『古事記』、『万葉集』、『古今和歌集』と『伊勢物語』、『枕草子』と『源氏物語』、『今昔物語集』と絵巻物などである。

満たされて大吉

それらを索引として日本精神の奥底にグイグイ入っていくのだけれども、この三つの領域は、当然の話ではあるが、便宜上分かたれたもので画然と分かれることはなく、それぞれ混じり合い溶け合っていて、そこのところに精神の玄妙な働きがあって、そこのところを著者はグングン押し開いていくので読んでいて気色がよい。

それで読んでまず思ったのは、右(事務局注:上)のような文物・文献は学校で習ったり、或いは実際に見たりして一応は知っていたけれども、それらが連続してあるとは思わなかったというか、それらの連続と変化の果ての果ての果てで、日々の活計をぎりぎり立てつつ、会計の勉強をしようとして20分で挫折したり、健康と長寿を願ってサプリメントをがぶ飲みして吐きそうになっている自分とはほとんど関係のないことととらえて油断していたなあ、ということだった。

実際の話が例えば第9章で出てくる奈良は興福寺の阿修羅像など、私ははっきり言って20代前半までに4~5回は見ているはずだが、その都度、この人がボクサーになったら無敵だろうなあ。いや待てよ、しかし顔も多いからパンチを貰う可能性も高まるので相殺されて同じことか、程度の感慨しか抱かなかった。

もちろんそれは私が人並み外れた痴(し)れ者だからには違いないが、しかし、それはこうした文物・文献をひとつびとつバラバラにしか見られなかったからでもある。けれども本書を読むとそうしたものが連続として現れ、しかもそのひとつびとつについての見方も私などからすると驚くほど深く見て、しかもそれをわかりやすく説明してくれているので、精神が彼方から満たされてくるような心持ちがして大吉。下巻はこれから読むが楽しみでならないやんけざます。
日本精神史 / 長谷川 宏
日本精神史
  • 著者:長谷川 宏
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(506ページ)
  • 発売日:2015-09-10
  • ISBN-10:4062194619
  • ISBN-13:978-4062194617
内容紹介:
縄文時代の巨大建造物から江戸末期の『東海道四谷怪談』まで、日本の思想と文化を「精神」の歴史として一望のもとにとらえた快著!

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初出メディア

週刊エコノミスト

週刊エコノミスト 2016年1月26日

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