書評

『住宅市場の社会経済学』(藤原書店)

  • 2018/06/06
住宅市場の社会経済学 / ピエール・ブルデュー
住宅市場の社会経済学
  • 著者:ピエール・ブルデュー
  • 翻訳:山田 鋭夫, 渡辺 純子
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(334ページ)
  • 発売日:2006-02-01
  • ISBN-10:489434503X
  • ISBN-13:978-4894345034
内容紹介:
生活の基盤であり、最も高価で象徴的な買い物でもある「家」の信頼と価値は何に由来し、買い手はいかに購入を決定するのか。住宅市場の現場に働く重層的なメカニズムを徹底分析、人間社会における経済行為の原理を解明する。

新興中流学問=社会学の逆襲

格差や階級は学問界にもある。社会科学の上流学問はなんといっても歴史も古く、数理モデルなどで洗練された経済学だろう。それに対して社会学は、歴史も新しく、対象も雑多であやしげである。下流学問とはいわないまでも、せいぜい新興中流学問である。このような学問は、上流学問が残した領域を地味に開拓するか、後発性を逆手にとって、学問界の序列革命に打ってでるかの二つの道しかない。著者ピエール・ブルデューは、後者(学知の革命)の道を切り開いた20世紀最大の社会学者である。

本書では、そうした社会学帝国主義が一般理論ではなく、住宅市場という今日的トピックを題材にして緻密(ちみつ)かつ過激に展開されている。

住宅の供給や需要は融資や減税などによって左右されるように、国家によって構築されている。さらに住宅政策は、住宅会社や金融機関によって影響を受けている。顧客の需要は、住宅政策や供給側の戦略と対応しながら、個人の来歴などにもとづく嗜好(しこう)とのからみで社会的に創られる。そのありさまが、官僚や住宅メーカー、銀行それぞれの戦略とかけひき、住宅販売員の手練手管や不動産広告のあの手この手などにわたっての膨大なデータ分析により明らかにされる。そして、住宅市場が正統派経済学である新古典派経済学が前提とする自由な主体による合理的選択論(自らの効用や利潤を最大化する行為者)といかにかけはなれているかが仮借なく暴かれる。

数学的な理論構成などによって学の高みにたつ正統派経済学は、住宅をめぐる需給活劇と小市民階級の悲惨への追い込みを覆い隠した無菌実験室での洗練さではないかという疑いは十分つたわってくる。住宅市場のなかで、夢を縮小させられ、欺かれ、ゆすり取られていくのが小市民階級であることを描いたくだり(第1部の結論)は、耐震強度偽装などの欠陥住宅問題の社会的所以(ゆえん)を知る意味で圧巻である。山田鋭夫、渡辺純子訳。

【この書評が収録されている書籍】
学問の下流化 / 竹内 洋
学問の下流化
  • 著者:竹内 洋
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:単行本(302ページ)
  • 発売日:2008-10-01
  • ISBN-10:4120039838
  • ISBN-13:978-4120039836
内容紹介:
うけ狙いのポピュリズム化とオタク化の進む学界。紋切り型の右翼・左翼から抜け出せない論壇。書店にあふれるお手軽な「下流」新書…書き手として、読み手として考える「教養主義の没落」後の教養。

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住宅市場の社会経済学 / ピエール・ブルデュー
住宅市場の社会経済学
  • 著者:ピエール・ブルデュー
  • 翻訳:山田 鋭夫, 渡辺 純子
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(334ページ)
  • 発売日:2006-02-01
  • ISBN-10:489434503X
  • ISBN-13:978-4894345034
内容紹介:
生活の基盤であり、最も高価で象徴的な買い物でもある「家」の信頼と価値は何に由来し、買い手はいかに購入を決定するのか。住宅市場の現場に働く重層的なメカニズムを徹底分析、人間社会における経済行為の原理を解明する。

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 2006年4月23日

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