一人と一人が対峙する鬼気迫る瞬間の記録
PK。ゴールキーパーからは12ヤードしか離れていない至近距離から放つシュート。だが、意外と決まらないこともある。自分の利き足にとって自然な方向(たとえば 、右利きの人は左側に蹴る)に必ず蹴る人もいれば、あれこれ考え込んで真ん中に蹴る人もいる。とにかく、PKは独特だし、元日本代表監督のイビチャ・オシム氏は、P K戦になったらピッチサイドから姿を消したと記憶する。さて、この本では、歴史上、さまざまな物議をかもしてきたPKが俎上(そじょう)にのせられている。それだけではなく、科学的分析による成功確率、国民性による向き不向きなど、およそ考えられる限りのPK議論を網羅しているのだ。
わが愛する、元フランス代表のジネディーヌ・ジダンが必ずゴール左のサイドネット目がけてPKを蹴ったことなど、さまざま言及したいことはあるが、ひとつだけ。2010年南アフリカワールドカップ準々決勝、ガーナとウルグアイの試合。1−1の緊迫した試合の終了直前、ガーナの選手のヘディングがほとんどウルグアイのゴールに吸い込まれそうになった。ゴールキーパーを越えていた。だが、ゴールライン上でウルグアイのフォワードのルイス・スアレスが飛んできたボールを手でたたき落とし、得点を許さなかった。もちろんスアレスは退場処分になり、ガーナにPKが与えられた。ガーナのギャンという選手は力いっぱい蹴って、ゴールをはずした……。
PKはサッカーではないという人もいる。そう思う半面、PKにはすべての要素を削(そ)ぎ落とした果てに表れる一対一の勇気と駆け引きがある。シュートをはずして、「神様、俺は死にました」と呟(つぶや)きながらピッチを歩く選手の流す涙には、PKの残酷さと歴史が刻まれている。