書評

『アメリカ人であるとはどういうことか―歴史的自己省察の試み』(ミネルヴァ書房)

  • 2020/08/18
アメリカ人であるとはどういうことか―歴史的自己省察の試み / マイケル・ウォルツァー
アメリカ人であるとはどういうことか―歴史的自己省察の試み
  • 著者:マイケル・ウォルツァー
  • 翻訳:古茂田 宏
  • 出版社:ミネルヴァ書房
  • 装丁:単行本(230ページ)
  • ISBN-10:4623045307
  • ISBN-13:978-4623045303
内容紹介:
地球のあらゆる土地からやってきた全ての民族(移民)を乗せて漂う「ノアの箱舟」アメリカ…。その箱舟の中部を、「差異の政治」の視点からカラフルに描ききったアメリカの細密画。9・11後の動静が気になるユダヤ系アメリカ人哲学者ウォルツァーによる渾身のアメリカ論。

民族や宗教の共存への調停意欲が低下

9・11同時多発テロからイラク戦争に至るアメリカの外交について、多くのアメリカ論が出版されてきた。それらはアメリカの「外なる世界」に対する認識を分析するものだが、「内なる世界」である自国をどうとらえるのかを論じる書物も目立っている(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2006年)。

一方の極はハンチントンで、民族や文明が相いれず対立すると見る。著書『文明の衝突』は世界が文明ごとに分裂するとし、『分断されるアメリカ』ではアメリカ国内での民族的不統一に懸念を示した。

これに対しウォルツァーは、この小著で、アメリカの本質を「文化的な多様性と宗教的な寛容」に見いだす。アメリカはたんに州が集まった「連合国家」なのではなく、様々な民族や人種、宗教信者が共存してきた点に特徴があるとする。アメリカ国家の特徴はいずれかの民族性や宗教にはかかわらぬ中立性にあり、それぞれの集団が差異を保ちつつ共存しうるよう調整する、というわけだ。

言語すら共有できない多民族化が進むときに共存は不可能というのがハンチントンの悲観論だが、ウォルツァーは異なる民族や宗教が「仲良く喧嘩する」のをアメリカの伝統とみなし、そうした調停意欲の低下にこそ問題があるとする。調停には「市民的礼節」が必要としており、共感を覚えた。

政治の焦点を国家に置く保守主義とも個人に当てるリベラリズムとも異なって、中間集団を強調するコミュニタリアニズムがウォルツァーの立場とされているが、本書では、アメリカの右傾化は、9・11の恐怖体験から福音主義プロテスタントとカトリック原理主義者が共和党に雪崩を打って入党したせいで起きたと診断している。そこには、現在のアメリカは宗教と政治の分離および国家の中立という本来の姿を見失っている、という理解が込められている。

ヨーロッパは移民の国アメリカとは異なり「土地に根ざした」地域の連合体だとしているが、とすれば、日本が改革で地方分権を目指すなら、ヨーロッパ型の地域連合ということになるのだろうか。モデルを見誤らないようにしたいものだ。
アメリカ人であるとはどういうことか―歴史的自己省察の試み / マイケル・ウォルツァー
アメリカ人であるとはどういうことか―歴史的自己省察の試み
  • 著者:マイケル・ウォルツァー
  • 翻訳:古茂田 宏
  • 出版社:ミネルヴァ書房
  • 装丁:単行本(230ページ)
  • ISBN-10:4623045307
  • ISBN-13:978-4623045303
内容紹介:
地球のあらゆる土地からやってきた全ての民族(移民)を乗せて漂う「ノアの箱舟」アメリカ…。その箱舟の中部を、「差異の政治」の視点からカラフルに描ききったアメリカの細密画。9・11後の動静が気になるユダヤ系アメリカ人哲学者ウォルツァーによる渾身のアメリカ論。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ

初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2006年2月26日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

関連記事
松原 隆一郎の書評/解説/選評
ページトップへ