書評
『99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方』(光文社)
「常識」の土台を掘ってみよう
最近の新書はハリウッドのB級アクション映画みたいになってきた。派手な予告編に誘われて映画館に行くと、なーんだ、面白いところはすべて予告編で体験済みじゃないか、と。本の場合、予告編に該当するのは書名や帯のコピーである。だから、本書『99・9%は仮説』もそのたぐいではないかと、眉にツバつけて読んだのだけど、意外やまともな科学入門書である。帯の「飛行機はなぜ飛ぶのか? 科学では説明できない!」が衝撃的だ。もし空港の売店で見つけたら、買おうかやめようか、かなり悩む。
飛行機の話はプロローグに出てくる。これまでなぜ飛行機が飛ぶのかという「説明」はあったが、それは科学的にはデタラメか、推論の域を出ない。つまり科学的には解明されていない、というのである。でも飛行機は今日も飛んでいる。飛ぶ原理は、いまのところ仮説にしかすぎないのに。世の中すべて、仮説でできている、と著者はいう。なかなか過激だ。
仮説は検証されると定説になる。しかし、科学の歴史を振り返ると、定説と思われていたものがくつがえされる。誰もが知っているのは、天動説と地動説。ガリレオの時代まで、天動説は定説だった。もっとも、天動説であろうと地動説であろうと、私たちの日常はほとんど変わらないけど。
「そんなのは常識」だの「あたりまえだ」なんて言葉を連発する人は信用できない。時代が変われば「あたりまえ」は「あたりまえ」でなくなり、場所が変われば「常識」も「非常識」になる。自分だけは常に正しいと思っている人はつきあいにくい。
この本の最後、「すべては仮説」という仮説は反証可能か、と著者は読者に問う。どうなのだろう。やっぱり仮説?それとも、デカルトもいうように、疑っている自分だけは疑いようがない?
朝日新聞 2006年3月26日
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