書評

『親子三代、犬一匹』(朝日新聞出版)

  • 2018/12/24
親子三代、犬一匹 / 藤野 千夜
親子三代、犬一匹
  • 著者:藤野 千夜
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:単行本(472ページ)
  • 発売日:2009-11-06
  • ISBN:402250658X
内容紹介:
柴崎家のアイドル、マルチーズのトビ丸が食卓をぐるりとまわれば、自然と笑みがこぼれだす。祖母、母、姉、トビ丸、そして時々おじさんと、下町に暮らす柴崎章太の、何でもないけどかけがえのない日々。朝日新聞好評連載の書籍化。
小説を読むとき、書くとき、私はテーマとモチーフとを考える。テーマは歴(れっき)とした文芸用語だろうがモチーフは我流の言葉遣いかもしれない。テーマは文字通り題材だが、モチーフは、そのテーマを通し読者になにを訴えるか、読者の側から言えば「この小説、なにが言いたいのか」と問うときの“なにが”に当たるものだ。忠臣蔵をテーマとしていても、武士道の尊さを語るものと、仇討(あだう)ちのばからしさを綴(つづ)るものと、これがモチーフの差である。テーマとモチーフのちがいは作品のタイトルにも顕著に現れることがあって、三島由紀夫の『金閣寺』は明白にテーマを伝えているが、太宰治の『人間失格』はモチーフを匂(にお)わしている、と言ってもよいだろう。

さて本書は『親子三代、犬一匹』と題して、これがテーマである。祖母、母、姉と弟と犬、まさしくこの家族を題材として現代の生活が描かれている。描写は闊達(かったつ)で、ときにユーモラス、昨今の風俗や若者言葉も抜かりなく取り入れられ、スラスラとここちよく読める。弟に当たる章太が実質的な主人公なのだろうが、この少年の淡い恋などもあって、ほほえましい。

だが、モチーフはなにか、と問うてみると、

――現代の家族を軽妙に描くこと、なのかなあ――

と、どこまでも軽やかである。いささかも重いものではない。

もとより小説は重いモチーフをもってよしとするものではなく、この軽さも大切であり、若い読者をして、

「うん、わかる、わかる」

膝(ひざ)を打たせることも小説の存在理由だろう。

家族構成を一見しても女性が中心、そこにとびきりかわいいマルチーズ犬が加わり、父は死別しているが、母は児童向けのお話を書き、父の弟と、ほどよい仲みたい。章太はガールフレンドにふられるが、それもよりを戻す方向へと進み、あらあらしい気配はどこにもなく、大きな事件も起きず、

――おだやかだなあ――

こうした軽い清涼感を醸し出すのは、案外むつかしい。
親子三代、犬一匹 / 藤野 千夜
親子三代、犬一匹
  • 著者:藤野 千夜
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:単行本(472ページ)
  • 発売日:2009-11-06
  • ISBN:402250658X
内容紹介:
柴崎家のアイドル、マルチーズのトビ丸が食卓をぐるりとまわれば、自然と笑みがこぼれだす。祖母、母、姉、トビ丸、そして時々おじさんと、下町に暮らす柴崎章太の、何でもないけどかけがえのない日々。朝日新聞好評連載の書籍化。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2009年12月20日

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