書評
『親子三代、犬一匹』(朝日新聞出版)
小説を読むとき、書くとき、私はテーマとモチーフとを考える。テーマは歴(れっき)とした文芸用語だろうがモチーフは我流の言葉遣いかもしれない。テーマは文字通り題材だが、モチーフは、そのテーマを通し読者になにを訴えるか、読者の側から言えば「この小説、なにが言いたいのか」と問うときの“なにが”に当たるものだ。忠臣蔵をテーマとしていても、武士道の尊さを語るものと、仇討(あだう)ちのばからしさを綴(つづ)るものと、これがモチーフの差である。テーマとモチーフのちがいは作品のタイトルにも顕著に現れることがあって、三島由紀夫の『金閣寺』は明白にテーマを伝えているが、太宰治の『人間失格』はモチーフを匂(にお)わしている、と言ってもよいだろう。
さて本書は『親子三代、犬一匹』と題して、これがテーマである。祖母、母、姉と弟と犬、まさしくこの家族を題材として現代の生活が描かれている。描写は闊達(かったつ)で、ときにユーモラス、昨今の風俗や若者言葉も抜かりなく取り入れられ、スラスラとここちよく読める。弟に当たる章太が実質的な主人公なのだろうが、この少年の淡い恋などもあって、ほほえましい。
だが、モチーフはなにか、と問うてみると、
――現代の家族を軽妙に描くこと、なのかなあ――
と、どこまでも軽やかである。いささかも重いものではない。
もとより小説は重いモチーフをもってよしとするものではなく、この軽さも大切であり、若い読者をして、
「うん、わかる、わかる」
膝(ひざ)を打たせることも小説の存在理由だろう。
家族構成を一見しても女性が中心、そこにとびきりかわいいマルチーズ犬が加わり、父は死別しているが、母は児童向けのお話を書き、父の弟と、ほどよい仲みたい。章太はガールフレンドにふられるが、それもよりを戻す方向へと進み、あらあらしい気配はどこにもなく、大きな事件も起きず、
――おだやかだなあ――
こうした軽い清涼感を醸し出すのは、案外むつかしい。
さて本書は『親子三代、犬一匹』と題して、これがテーマである。祖母、母、姉と弟と犬、まさしくこの家族を題材として現代の生活が描かれている。描写は闊達(かったつ)で、ときにユーモラス、昨今の風俗や若者言葉も抜かりなく取り入れられ、スラスラとここちよく読める。弟に当たる章太が実質的な主人公なのだろうが、この少年の淡い恋などもあって、ほほえましい。
だが、モチーフはなにか、と問うてみると、
――現代の家族を軽妙に描くこと、なのかなあ――
と、どこまでも軽やかである。いささかも重いものではない。
もとより小説は重いモチーフをもってよしとするものではなく、この軽さも大切であり、若い読者をして、
「うん、わかる、わかる」
膝(ひざ)を打たせることも小説の存在理由だろう。
家族構成を一見しても女性が中心、そこにとびきりかわいいマルチーズ犬が加わり、父は死別しているが、母は児童向けのお話を書き、父の弟と、ほどよい仲みたい。章太はガールフレンドにふられるが、それもよりを戻す方向へと進み、あらあらしい気配はどこにもなく、大きな事件も起きず、
――おだやかだなあ――
こうした軽い清涼感を醸し出すのは、案外むつかしい。
朝日新聞 2009年12月20日
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