書評

『写真幻想』(平凡社)

  • 2019/02/04
写真幻想 / ピエール・マッコルラン
写真幻想
  • 著者:ピエール・マッコルラン
  • 翻訳:昼間 賢
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:単行本(245ページ)
  • 発売日:2015-07-18
  • ISBN-10:4582231241
  • ISBN-13:978-4582231243
内容紹介:
澁澤龍彦が愛した伝説の作家マッコルランによる写真論。ベンヤミンに先駆け、戦間期欧州の写真を論じた「もう一つの写真小史」。

紡がれた言葉によって、時代がより鮮明に映る

通常、写真集には短い言葉がついている。余計な言葉、ではない。写真に向き合って、写真という表現に言葉で拮抗(きつこう)しようとする者の批評の言葉である。

両大戦間、というから今からほぼ100年ほど前、パリを撮影した有名な写真家たちがいた。そして彼らの写真について見事な言葉を紡いだ者がいた。ウジェーヌ・アジェ、アンドレ・ケルテス、ジェルメーヌ・クリュル、そしてブラッサイといった写真家の写真について、ピエール・マッコルランは時に短く、時にやや冗長ともいえるほど長く、言葉を残している。文学の雑誌の連載の中で、あるいは写真集の序文で、マッコルランは見事に写真を時代の諸相の中に置き直す。

写真芸術は文芸の一種である。より正確に言えば、撮影機は、とりわけそれが生を固定するとき、人間の感情の刷新に役立つとは言わないまでも、少なくともその周囲で起こっていることを理解させてくれる。

これは、アジェの写したパリについての言葉。写真について語りつつも、それが文学や音楽とどんなに深く関わっているか、マッコルランの関心はそこにある。

そもそもこんな本、すごく珍しい。個別の写真家の写真集は存在するし、有名な批評家ならその批評本も珍しくはないだろう。だが、さまざまな写真家の写真について語りつつ(当該写真も掲載されている)、そこから時代の不安や社会が抱えていた幻想までが浮かび上がるような本は、めったにお目にかかれない。そもそもそうした写真集についての文章など散逸してしまって、まとめられることもあまりないのではないか。

と、思っていたら、マッコルランって、澁澤龍彦や生田耕作が愛読した作家なんだそうだ。変名でポルノ小説や冒険小説も書いた、とか。やるなあ。
写真幻想 / ピエール・マッコルラン
写真幻想
  • 著者:ピエール・マッコルラン
  • 翻訳:昼間 賢
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:単行本(245ページ)
  • 発売日:2015-07-18
  • ISBN-10:4582231241
  • ISBN-13:978-4582231243
内容紹介:
澁澤龍彦が愛した伝説の作家マッコルランによる写真論。ベンヤミンに先駆け、戦間期欧州の写真を論じた「もう一つの写真小史」。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2015年8月30日号

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