書評

『秘伝 大学受験の国語力』(新潮社)

  • 2019/04/08
秘伝 大学受験の国語力 / 石原 千秋
秘伝 大学受験の国語力
  • 著者:石原 千秋
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(255ページ)
  • 発売日:2007-07-24
  • ISBN-10:4106035871
  • ISBN-13:978-4106035876
内容紹介:
近代教養主義の時代から大衆教育社会へ、入試問題は歴史とともに変容してきた。まさに、「受験国語」は時代を映す鏡なのだ。では、現代の特徴は何か?センター試験、東大、早大などの問題を徹底的に分析し、国立型と私立型、選択肢問題と記述式問題、評論と小説、それぞれの解き方の筋道を具体的に示すとともに、大学受験国語が求める国語力の是非を論じる。

個性尊重教育と入試問題

『秘伝 大学受験の国語力』を読む

あるとき、評論家、小林秀雄(一九〇二~八三)の娘が国語の試験問題をみせて、「なんだかちっともわからない文章」と質問した。小林も読んで、なるほど悪文とおもい、「こんなもの、わかりませんと書いておけばいい」というと、娘は笑い出した。「だって、この問題は、お父さんの本からとったんだって、先生がおっしゃった」。

いまだったら、小林秀雄のお嬢さんにはぜひ、本書(石原千秋『秘伝 大学受験の国語力』新潮選書、二〇〇七年)をすすめたい。目から鱗のはず。

問題文は複雑に入り組み、迷わせようと仕組まれた事件なのだ。だから場数を踏んだ名探偵の推理力を傾聴するにしくはない。

本書は、大学入試センター、私立大、国立大にわたる事件(問題文)にわけいって、解決法を具体的に示している。「二項対立整理能力」や「翻訳能力」などの迷宮を解きほぐす推理の方程式がくりだされる。

名探偵は入試問題攻略法だけを説いているわけではない。おりおりにはさまれた歯に衣着せぬ教育論が光っている。

本当に「個性尊重」教育をもとめているのなら、「本文の言葉を適当に用いて説明する」などの問題はやめて、つぎのような問題にするべきだという。「本文の言葉を出来るだけ使わずに説明しなさい」。人と違うことに価値があるのだという思想を教えるには、「お題目ではなく、こういう具体的で切実な方法が何よりも有効」という(四四~四五頁)。なるほど、入試問題は絶大な教育力をもっている。

昔の入試国語も紹介され、解説されているが、一九五五年の立教大学経済学部の問題はすごい。

漱石や谷崎潤一郎など十の小説の冒頭部分を書き出し、作者と作品名を答えさせるもの。

文学的教養をためす試験ともいえるが、本当のところは出題者が労を省いた出題だったはず。こんな出題者の手抜きが許された時代がわかっておかしい。だから受験生や国語教師、出題者はもとより、受験生の親も年配者も存分に楽しめる。
秘伝 大学受験の国語力 / 石原 千秋
秘伝 大学受験の国語力
  • 著者:石原 千秋
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(255ページ)
  • 発売日:2007-07-24
  • ISBN-10:4106035871
  • ISBN-13:978-4106035876
内容紹介:
近代教養主義の時代から大衆教育社会へ、入試問題は歴史とともに変容してきた。まさに、「受験国語」は時代を映す鏡なのだ。では、現代の特徴は何か?センター試験、東大、早大などの問題を徹底的に分析し、国立型と私立型、選択肢問題と記述式問題、評論と小説、それぞれの解き方の筋道を具体的に示すとともに、大学受験国語が求める国語力の是非を論じる。

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初出メディア

産経新聞

産経新聞 2007年8月12日

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