歴史を創るも変えるも一人一人の人間しだい
私は勤務先の東大史料編纂(へんさん)所主催で、「日本を変えた人物10人」という全10回のリレー講座を企画したことがある。ところが、「人間個人が時代を創れるわけないだろう。勘弁してくれよ」〈その人の言葉のママ〉と非難され、実現しなかった。とても悔しかった。たしかにある意味、そうなのだ。一人の人間がどうがんばっても、歴史は変わらない。だが二つのことを指摘したい。
最近まで、いやもしかしたら今でも、指導者の判断が少なからぬ人命を損なうことがある。命を失う人にとっては、それはすべての終わりを意味する。人との絆も、恋心も、夢もそこで永遠に絶たれる。だとすると、人間一人の判断はやはりとんでもなく重いのではないか。
また、ジンギスカンを紹介するフランスのテレビ番組が力説していたが、苛烈な状況、たとえば洋上の海賊船、たとえば極寒のモンゴル、こうした環境ではリーダーの判断がみんなの生命を左右する。世界一の帝国を築いたジンギスカンはこうした試練を生き抜いて成長した。彼以外には、良くも悪くも、あの帝国は創れなかった。そして大帝国に内包されることで、東洋と西洋の連絡や交渉が始まった。「世界史」が生まれた。
本書は世界史に影響を与えた人物を生き生きと描く。彼らは私たち平凡な人間を凌駕する才能を持っていたから、時代に足跡を刻んだ。だからといって彼らは英雄などではない。実はドジな部分、笑ってしまう性癖をもつ、「やばいやつ」だった。この意味で、人間が歴史を創っていくことに違いはないのだ。
こうした事情は世界でも日本でも同様である。平凡な私たちも、歴史をよりよく変えていくことはできるのだ。そう希望を持たせてくれる一冊である。