書評

『個性大国フランス』(講談社)

  • 2020/08/18
個性大国フランス / 塚本 一
個性大国フランス
  • 著者:塚本 一
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(271ページ)
  • 発売日:1993-01-01
  • ISBN-10:406206281X
  • ISBN-13:978-4062062817
内容紹介:
住んでみて初めてわかるフランスの生活文化。レストラン、アパルトマン、学校教育、交通事故処理などしたたかなフランス人の知恵。
ボードレールの『パリの憂愁』の中に、四人の男が自分の恋人の欠点を言い合うという話がある。三人の話を聞き終えた四人目の男が大きく溜息をついて言う、君たちの彼女は可愛いじゃないか、ぼくの彼女は最悪だ、欠点がないのだから、と。都市もこれに似ている。スイスやドイツの都市は、清潔で住民も親切だが、なぜかもう一度行きたいという気持ちが起きない。これに対してパリは欠点だらけだが、その欠点も魅力のうちで、住んでいるときはなんてひどいところだろうと文句ばかり言っているのに、帰ってきた途端、すぐにでも取って返したくなる(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1993年)。本書にも産経新聞特派員としてパリに家族と一緒に赴任した著者が感じたパリとフランスの非能率、いい加減さ、治安の悪さなどがさんざんに書きつらねられている。評者も多少パリで暮らしたことがあるので、いちいち相槌を打ちながら読んだ。アパルトマンに入居したはいいが、いつまでも工事が終わらず、キャンプ生活をしいられたとか、未払いの税金を払いに出かけても結局払わせてもらえなかったとか、日本では想像もできない理不尽な驚きが満載されていて、苦労した著者一家には悪いが、大いに楽しませてもらった。

パリでひどい目にあった人の話を聞くほど、楽しいことはない。著者も書いているように、こうした欠点にも拘らず、いや欠点があるがゆえに、パリとフランスは不思議な魅力を持っているからである。著者も、散々な目に遭いながら、最後には、なるほど、こうした生き方もあるのだな、と妙に納得してしまっているようだ。特派員らしくフランス学校事情や年配者が住宅を担保に終身年金を個人から受け取るシステムなどが取材されている点ももちろん興味深いが、この本の魅力はやはり身勝手なパリジャンたちのお見事な言い分が、丹念に拾われているところだろう。なんだか、またパリに行きたくなってきた。

【この書評が収録されている書籍】
歴史の風 書物の帆  / 鹿島 茂
歴史の風 書物の帆
  • 著者:鹿島 茂
  • 出版社:小学館
  • 装丁:文庫(368ページ)
  • 発売日:2009-06-05
  • ISBN-10:4094084010
  • ISBN-13:978-4094084016
内容紹介:
作家、仏文学者、大学教授と多彩な顔を持ち、稀代の古書コレクターとしても名高い著者による、「読むこと」への愛に満ちた書評集。全七章は「好奇心全開、文化史の競演」「至福の瞬間、伝記・自伝・旅行記」「パリのアウラ」他、各ジャンルごとに構成され、専門分野であるフランス関連書籍はもとより、歴史、哲学、文化など、多岐にわたる分野を自在に横断、読書の美味を味わい尽くす。圧倒的な知の埋蔵量を感じさせながらも、ユーモアあふれる達意の文章で綴られた読書人待望の一冊。文庫版特別企画として巻末にインタビュー「おたくの穴」を収録した。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

個性大国フランス / 塚本 一
個性大国フランス
  • 著者:塚本 一
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(271ページ)
  • 発売日:1993-01-01
  • ISBN-10:406206281X
  • ISBN-13:978-4062062817
内容紹介:
住んでみて初めてわかるフランスの生活文化。レストラン、アパルトマン、学校教育、交通事故処理などしたたかなフランス人の知恵。

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初出メディア

産経新聞

産経新聞 1993年2月16日

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