書評

『つむじ風食堂の夜』(筑摩書房)

  • 2020/04/23
つむじ風食堂の夜 / 吉田 篤弘
つむじ風食堂の夜
  • 著者:吉田 篤弘
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(189ページ)
  • 発売日:2005-11-01
  • ISBN-10:4480421742
  • ISBN-13:978-4480421746
内容紹介:
懐かしい町「月舟町」の十字路の角にある、ちょっと風変わりなつむじ風食堂。無口な店主、月舟アパートメントに住んでいる「雨降り先生」、古本屋の「デニーロの親方」、イルクーツクに行きたい果物屋主人、不思議な帽子屋・桜田さん、背の高い舞台女優・奈々津さん。食堂に集う人々が織りなす、懐かしくも清々しい物語。クラフト・エヴィング商會の物語作家による長編小説。

宇宙がどうであっても…ここ

夜の十字路の角にぽつんと灯をともした食堂がある。十字路の四方から吹き寄せるつむじ風が起こるので、その名も「つむじ風食堂」。そこに風に吹き寄せられたような人たちが集まってくる。見た目にはただの万歩計みたいな「二重空間移動装置」を売りつける帽子屋、万年脇役の女優、星ひとつ一円で星座を描いている果物屋の若者、それに人工降雨の発明にふけっている語り手。手品師だった父親を亡くしてから彼は、父の背中についてきた来し方をさかさまにたどりはじめている。

それまでは遠い宇宙の果てに向かって歩いていた。それが父の死とともに夜の帳(とばり)がはたと落ち、向こうからここを覗(のぞ)いている目が見えてきた。食堂の客のひとりもいう。

宇宙がどうであっても、やっぱりわたしはちっぽけなここがいいんです。……わたしはいつだってここにいるし、それでもって遠いところの知らない町や人々のことを考えるのがまた愉(たの)しいんです。

来し方は大人たちに追いつこうと急いで何も見なかったのかもしれない。きびすを返すと見落としていたちっぽけなここが見えてきた。萩原朔太郎の『猫町』を思わせる。往路に見たのは、一歩ごとに埃(ほこり)をかぶった商品が並ぶ死にかけた町だった。復路は同じ町がキラキラした宝物で光り輝いている。つむじ風食堂は見出された時という場所だったのだ。

作者はクラフト・エヴィング商會を営む一人。ここにはないものとか、雲や風のようなつかみどころのない商品が専門のお店。そのもう一人の会員の吉田浩美も同時に『a piece of cake』(筑摩書房)を出した。こちらにも猫の図書館のイラストレーターやコルク人形作家、ポケットに入るサイズの町を撮る写真家といったゲストが集うオブジェのつむじ風食堂が出現している。いつもは二人共演のクラフト・エヴィング商會が今度は別個に別れて、月光に照らされた町のほの明るい反射光が月光を照らし返す趣向の競作になった。初めての買い物客には妖精オブジェのぎっしりつまった『a piece of cake』のほうがわかりやすいかもしれない。
つむじ風食堂の夜 / 吉田 篤弘
つむじ風食堂の夜
  • 著者:吉田 篤弘
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(189ページ)
  • 発売日:2005-11-01
  • ISBN-10:4480421742
  • ISBN-13:978-4480421746
内容紹介:
懐かしい町「月舟町」の十字路の角にある、ちょっと風変わりなつむじ風食堂。無口な店主、月舟アパートメントに住んでいる「雨降り先生」、古本屋の「デニーロの親方」、イルクーツクに行きたい果物屋主人、不思議な帽子屋・桜田さん、背の高い舞台女優・奈々津さん。食堂に集う人々が織りなす、懐かしくも清々しい物語。クラフト・エヴィング商會の物語作家による長編小説。

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朝日新聞 2003年1月12日

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