前書き

『無礼な人にNOと言う44のレッスン』(白水社)

  • 2019/05/31
無礼な人にNOと言う44のレッスン / チョン・ムンジョン
無礼な人にNOと言う44のレッスン
  • 著者:チョン・ムンジョン
  • 翻訳:幡野 泉
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(200ページ)
  • 発売日:2019-05-31
  • ISBN-10:4560096953
  • ISBN-13:978-4560096956
内容紹介:
韓国発! 職場・家族・恋人との関係の中で、女性が無礼な相手にセンスよく意見し、自分を大切に前向きに生きるための44のトリセツ

自分を傷つける人にもう我慢しない

あるバラエティ番組で驚くべき光景を目にした。いろんな出演者があれこれと会話を交わすありふれたトークショー形式の番組だったのだが、ある男性タレントが女性お笑い芸人のキム・スクにこう言った。「男みたいな顔してるよな」。その男性タレントは普段から品のない失礼な質問を投げかけては出演者を困らせるのがうまかった。こんなときはふつう、ただ笑ってスルーしたり自虐的にうなずいたりするのだろうが、そのときキム・スクはそうしなかった。彼をじっと見つめ、感情を表に出さずサラッと「え? 傷ついたんだけど」とひとこと言った。すると彼は冗談だったと謝り、キム・スクも笑顔で「大丈夫よ」と受け入れ、自然と話題は変わった。

この場面を見て、いろいろと考えさせられた。女性は日常生活の中で顔やスタイルなど見た目を重視される。特にバラエティ番組ではよく女性を比較する。美しい容貌でちやほやされる女性と、それより見劣りするからかわれ役の女性というパターンだ。女性たちは壺のような体形だとか、胸が小さいとか、ブサイクなどとからかわれ、もっとひどいことを言われても一緒に笑ったりしている。もし、不快感を示したりすれば、「冗談なのに、なんでムキになるんだよ」と言われたり、「プロ被害者」扱いをされてしまうため、たいていはただ我慢することを選んでしまう。そのように我慢に我慢を重ね、ある瞬間不満をはき出すと、相手はこう言うだろう。「嫌がってるだなんて、わからなかったよ。早く言えばよかったじゃないか」

権威的で男性中心の韓国社会の中で、若い女性であればあるほど自己表現の仕方がわからず、うろたえ傷つくのをたくさん見てきた。彼女たちは日常生活の中で感じる違和感をそのままはき出しても理解してもらえないとあきらめ、また、軍隊的な文化が根づいた男性に比べて「組織的な営みができない」とか「社会性に欠ける」と指摘されたくなくて、本音を隠してしまう。そうして悶々と考え続け思い悩んでいるうちに、結局自分の問題として跳ね返ってくる。「誤解されるような行動を取ったのは私なんだ」、「あの人はそんなつもりでなくて、私があまりに神経質すぎるだけなのかも」と。すると、その人に「傷つけられた」という事実はなくなり、そこにはただ「神経質すぎる私」だけが残る。

けれども、そこで不快感をあらわにすると感情的な人だと思われてしまうだけだ。「そんなことがよく言えますね」、「ものすごく不愉快です」などとストレートに言えたらいいが、よほどの度胸がなければできない。特に韓国では、目上の人や上司にストレートにものを言うのはとても難しい。私は幼いころ、どこまで感情表現をしたらいいのかわからず、関係をこじらせることが多々あった。どうしたらいいのか誰も教えてくれなかった。言い争ったあと、相手の悪口をまくしたててダメ押しをしたり、あまりに腹が立っておいおい泣いたりすることがほとんどだった。我慢しきれずに絶交することもあった。だからいつも気になっていた。無礼な人に出会ったとき、どうすればきっぱりと、そして品よく意思表示ができるのだろうか。

だから、キム・スクが「傷ついたんだけど」と言った場面は忘れられなかった。シンプルでありながらも毅然とした態度と言葉で、相手を責め立てず、自らの意志を伝えることができた。男性はすぐに謝ったが、傷つけた人となった。そしてキム・スクは、男性から上手に謝罪の言葉をもらいサッと受け流すことができる潔い女性に映った。これだけではない。謝罪した男性は、これまで指摘されたことがなかった行動にブレーキをかけることにより、「これは問題になりうる」と自覚できるよい機会になった。これは実際、彼の人生においてもプラスなことのはずだ。人は誰もが過ちを犯すが、そのことに気づかなければ、過ちを繰り返すばかりだ。社会的地位が高かったり年配だったりするほど無礼な人が多いのは、周囲から指摘を受ける機会がないからだとも言える。平等である意識の足りない社会においては、パワハラが横行して当然である。キム・スクが「家母長」〔家父長に対する言葉〕的なキャラクターを打ち出しつつ、「男性は控え目でなければいけません」、「お酒は男性がつぐものである」と、鏡で写し返すような物言いをするのも興味深い。彼女が韓国のケーブルテレビtvNの『SNLコリア』で話した内容は同じような脈略からきている。上司が「なにイライラしてるんだ。生理中か?」とからむと、「では部長はどうしてそんなに機嫌がいいんですか? 夢精でもしましたか?」と迎え撃つのだ。キム・スクは、ことわざをパロディー化し、「男の声が垣根を越えると家がすたれる」とうまいことを言った。このようなひねりによって、笑いながらもやっと私たちは理解することになる。これまで右から左へと聞き流し、積もりに積もった言葉がどれだけ偏見に満ちていて暴力的であったか。

キム・スクだけでなく、タレントのイ・ヒョリも魅力的な方法で話を切り返していた。イ・ヒョリがあるバラエティに出演したとき、司会者がFin.K.L.(ピンクル)として活動していたときのダンスと歌を披露してほしいと言った。事前の打ち合わせはなかったようで、とてもしつこく要求していた。イ・ヒョリはそんな司会者に「昔ながらの進行をされるんですね」と笑ったあと、「最近の方はピンクルの歌を知りませんよ」とつけ加え、自然にその要求を退けた。司会者が時代にそぐわない人だと他の出演者たちも納得し、イ・ヒョリはこの隙に機転を利かせ話題を変えた。ユーモアがありながらも、経験と余裕を感じさせる対応だった。

これに似ているのだが、まるで違う対応をしてしまった場面も見た。とある有名な女性アイドルグループがバラエティ番組に出演し、男性司会者たちからぶりっ子してみてと強要された。するとメンバーはそんなことはしたくないと言って、わっと泣き出した。おそらく長い間、同じような要求に苦しんでいたのだろう。メンバーのみんなが突然泣いたので、番組の雰囲気は凍りつき、このアイドルグループはプロ意識に欠けると批判された。彼女たちの受けたストレスは理解できるが、もっとうまく対応できたらよかったのに、と残念に思った。彼女たちの姿に以前の自分を見ている気がして、さらに胸が痛んだ。

私たちは日常生活の中で無礼な人にたくさん出会う。心の距離を推しはかることなく、突然こちらに踏み込んでくる人がいる。そんな人たちにうろたえず、「マナー違反ですよ」と知らしめる方法はないだろうか? 当然あるはずだ。本書で私が伝えたいのは、まさにこのことだ。ただそれを実際に使ってみるには少し練習が必要だ。私は二十代を生きてきて、自分を傷つける人たちに我慢ばかりしていると無気力になってしまうと悟った。私はしっかり自分の足で立ちたかったし、自分の内面の叫びを聞けなくするような外部の騒音には、余裕をもって音声オフのボタンを押したかった。毎日少しずつ運動をして体をメンテナンスするように、自己表現のための筋肉を鍛えるのにも時間と努力が必要だった。しかし、へこたれることなく訓練を続けたおかげで、もう私はこれまで傷つけられた人やその記憶に思いを巡らせたり、自責の念にさいなまれたりすることはなくなった。

泣いたり腹を立てたりしなくても、自分の立場を貫き通すことはできる。本書では、私が試した中で最も効果的だった方法と、その過程で実感したことをまとめた。無礼な人に会っても滅入ってはいけない。品よく笑いながら警告する方法はいくらでもあるから。本書が、無礼な人の中にいてもしっかり自分を見出したい人の一助となることを願っている。

[書き手]チョン・ムンジョン(韓国女性向けウェブマガジン編集長)
無礼な人にNOと言う44のレッスン / チョン・ムンジョン
無礼な人にNOと言う44のレッスン
  • 著者:チョン・ムンジョン
  • 翻訳:幡野 泉
  • 出版社:白水社
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韓国発! 職場・家族・恋人との関係の中で、女性が無礼な相手にセンスよく意見し、自分を大切に前向きに生きるための44のトリセツ

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