前書き

『科学でアートを見てみたら』(原書房)

  • 2019/06/19
科学でアートを見てみたら / ロイク・マンジャン
科学でアートを見てみたら
  • 著者:ロイク・マンジャン
  • 翻訳:木村 高子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(224ページ)
  • 発売日:2019-03-20
  • ISBN:456205641X
内容紹介:
ゴッホの描く太陽は日の出と日の入り、どちら?科学的知識を用いると、アートの新たな側面が見えてくる。
アートと科学は相容れないものというイメージはないでしょうか。しかし科学はアートの秘密を解き明かし、新たな側面を示すものなのです。ダ・ヴィンチ、ゴッホ、フェルメール、ヤン・ファン・エイク、ダリ、モンドリアン、モネをはじめとした巨匠たちの作品に科学者が向き合った、『科学でアートを見てみたら』の著者はしがきを特別公開します。

科学によるアートの再発見

芸術と科学は、遠い昔から対話を繰り返してきた。数学だけではなく音楽にも造詣の深かったピタゴラスは、「ピタゴラス音律」を発見している。中世まで大学で教えられていたリベラル・アーツには算術、音楽、天文学、修辞学、論理学などが含まれていた。ルネサンス期を代表する天才レオナルド・ダ・ヴィンチは科学と芸術の両方の分野で抜きん出た才能を見せた。ガリレオとデカルトは芸術と哲学の教育を受けている。このように17世紀までは、芸術と科学は不可分の関係にあった。しかしその後、人類の知識量が増え、専門化が進むにつれて、両者は次第に分離していった。簡単に言えば、芸術家になるか科学者になるかを選ばなければならなくなった。
 

創造性が科学とアートを結ぶ

何十年か前から逆の動きが登場し、両者を結ぶ橋が無数に架けられた。また両者の本質的な共通点を指摘する専門家も出てきた。例えば、両方の分野において創造性が重要視される点などだ。芸術も科学もよく似た方法論を持つため、作品制作あるいは科学的事実の発見を通して未知の世界を探求する両者にとって、創造性は不可欠なのである。

最近では、CERN(欧州合同素粒子原子核研究機構)、CEA(フランス原子力・代替エネルギー庁)、キュリー研究所などの大規模研究施設に芸術家を招聘し、滞在してもらうアーティスト・イン・レジデンス制度を活用して、芸術家と科学者が出会い、共同で思索を重ね、刺激し合うケースも増えている。こうした場では、科学者は通常の研究から脇道にそれ、慣れ親しんだ方法について自問し、視点を変えるように仕向けられる。反対に芸術家も、世界に対して問題提起し、創造活動に取り組める未踏の分野を発見する。対話の過程では、例えば将来の気候や、放射性廃棄物の行く末について、芸術は科学に新しい思考方法を提供する。ジョルジュ・ブラックの言葉「芸術は動揺させるために存在する。科学は安心させるために存在する」の反対のことが起きているのかもしれない。芸術と科学の和解を証拠づける一つの例が、2017年にエコール・ポリテクニーク、国立高等装飾美術学校、ダニエル&ニナ・カラッソ財団が共同で設置した芸術科学講座である。

芸術と科学を結ぶいまひとつの懸け橋は、芸術家が研究施設で発見した新しい表現手段である。特に1980年代以降、絵筆に代えてデジタル技術、遺伝学、数学、ロボット工学などを活用する科学的芸術家の登場とともに、この動きは顕著になった。

科学は美術史にも関与している。科学者は分光器、クロマトグラフィー、加速器などを利用して、過去の作品の発する声に耳を傾け、そこに隠された秘密を明らかにしつつある。例えば16世紀の画家パオロ・ヴェロネーゼの《カナの婚礼》では、X線検査の結果、どんな構図を採用するか、画家が思い悩んでいたことが判明した。

傑作に秘められた科学の痕跡

そして最後に、おそらくそれほどたどる者は多くないだろうが、筆者の選んだ道がある。それは、科学者の目で芸術作品を鑑賞することによって、そこに潜む秘密を見つけ出し、理解を高め、より深い感動を得ることである。絵画や彫刻に込められた「科学的な内容」に、作者自身が無自覚である場合が少なくない。それでも大変多くの作品、なかには読者も間違いなくご存じの、世界的に有名な傑作の中にそれは厳然として存在し、解読を待っているのだ。たとえ十分な科学的知識をお持ちでない方にも、本書が解読の案内役になることを願っている。

[書き手]ロイク・マンジャン(フランスの科学系雑誌『Pour la Science』副編集長)(木村高子翻訳)
科学でアートを見てみたら / ロイク・マンジャン
科学でアートを見てみたら
  • 著者:ロイク・マンジャン
  • 翻訳:木村 高子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(224ページ)
  • 発売日:2019-03-20
  • ISBN:456205641X
内容紹介:
ゴッホの描く太陽は日の出と日の入り、どちら?科学的知識を用いると、アートの新たな側面が見えてくる。

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