前書き

『名もなき花たちと:戦争混血孤児の家「エリザベス・サンダース・ホーム」』(原書房)

  • 2019/07/03
名もなき花たちと:戦争混血孤児の家「エリザベス・サンダース・ホーム」 / 小手鞠 るい
名もなき花たちと:戦争混血孤児の家「エリザベス・サンダース・ホーム」
  • 著者:小手鞠 るい
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(176ページ)
  • 発売日:2019-06-14
  • ISBN:4562056681
内容紹介:
目や肌の色が違うから、敵国の子だから。戦後、見捨てられた多くの混血孤児と、その母となった澤田美喜を描く感動ノンフィクション。
敗戦後、路上に見捨てられた混血孤児たちを救い育てたのは、岩崎彌太郎の孫娘、澤田美喜(さわだみき)だった。アメリカと日本両国の差別と闘い、2000人以上の子どもの命を救った「ママちゃま」こと澤田美喜と、彼女が私費で開設した乳児院「エリザベス・サンダース・ホーム」で育った混血孤児たちの、人種と国境を越えた愛の軌跡を、ボローニャ国際児童図書賞受賞作家、小手鞠るいが描く。
なぜいま日本人に澤田と孤児たちの物語――実話――を伝えたいと思ったのか。執筆に込めた想いを抜粋して公開する。

「戦争混血孤児」と澤田美喜

人種、民族などが異なる両親のあいだに生まれた子は「混血児」と、親から捨てられた混血児は「混血孤児」と、呼ばれていました。
このような子どもたちは、肌の色がちがう、目の色がちがう、髪の色がちがうというだけで、同じ日本人からひどい差別を受け、偏見―ゆがんでいる考え方、かたよっているものの見方―にさらされていました。

戦争孤児も、混血孤児も、みなさんと同じように、たったひとつの命をさずかって、この世に生まれてきた赤んぼうたちです。
この、罪もない、とうとい命を、救わなくてはならない。
しっかりと守って、いつくしんでいかなくては――。
強い思いと信念につらぬかれて、戦争混血孤児を引きとり、保護し、たいせつに育て、愛をそそいだ人がいました。
それが「ママちゃま」です。
生涯を通して、二千人以上もの子どもたちの母でありつづけた澤田美喜さん、その人です。(本文より)

「戦争×子ども」いまこそ知っておきたい歴史

なぜ今、この時代に、戦争混血孤児の物語―本当にあったお話―を書いたのか。
それは、今の子どもたちを取り巻く状況が、決して手放しで安心できるようなものにはなっていないのではないかと思うから。幼児虐待、育児放棄、いじめという名の暴力、学級崩壊、不登校など、問題はむしろ深刻化していると言っても過言ではない。敗戦後の混乱期に比べれば、日本社会は圧倒的に豊かになり、便利になり、物質も情報もあふれかえっている。それなのになぜ? と、首をかしげたくなるのは、私だけだろうか。

この作品を書いているあいだ中、私は、子どもたちの生命力に胸を打たれつづけていた。強くたくましく生きる。したたかにしなやかに生きる。踏まれても踏まれても起き上がって咲くたんぽぽのような、戦争混血孤児たちの命の力に。
この感動を、二十一世紀を生きる子どもたちに伝えたいと思った。今こそ伝えなくてはならないと。戦争混血孤児たちのその後の人生を追いかけるのではなく、読者と同じ年代だったころの子どもたちの「今」に焦点を当てて書いたのは、このような意図があってのことである。

タイトルの「名もなき花たち」とは、親に捨てられ、名前すら持たない、ひとりの力ではとうてい生きていけない赤ん坊たちを意味している。同時に、私たちもまた、生まれてきたときには誰もが「名もなき存在」であった、という思いもこめた。
名もなき赤ん坊たちに名前をつけ、美しい花を慈しむようにして育て上げた愛の人、澤田美喜さんの偉業に、あらためて、尽きせぬ敬意を捧げたい。

[書き手]小手鞠るい(作家)
名もなき花たちと:戦争混血孤児の家「エリザベス・サンダース・ホーム」 / 小手鞠 るい
名もなき花たちと:戦争混血孤児の家「エリザベス・サンダース・ホーム」
  • 著者:小手鞠 るい
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(176ページ)
  • 発売日:2019-06-14
  • ISBN:4562056681
内容紹介:
目や肌の色が違うから、敵国の子だから。戦後、見捨てられた多くの混血孤児と、その母となった澤田美喜を描く感動ノンフィクション。

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