手際鮮やか 大スケールの歴史劇場
表題の王道楽土とは、狭義には戦前の日本による満州建国を意味する。本書の論述の基本は、戦後日本の高度経済成長が満州国の培った人脈とノウハウによって支えられた、という認識に貫かれている。満州国は一九四〇年に完成する日本の戦時統制経済の縮図であり、この統制経済は戦後も生き延びて、官僚による企業の「護送船団方式」となった。また、満州は様々な企業育成の実験国家であり、満州国の人脈と技術が、戦後日本を支える東急・西武・阪急の私鉄沿線開発、新幹線、トヨタ・ニッサンの自動車産業の三本柱を育てたのだった。
資料を駆使して論証を進める著者の手際はじつに鮮やかだ。引用資料の硬い記述が吉田の手にかかると(これを彼は「コラージュ・ノンフィクション」と呼ぶが)、歴史は立体感をもった劇場となり、登場人物は生々しい個性をもった大小の怪物に変わる。本書はさながら精神のフリークスが跳梁跋扈するサーカスのように面白い見世物なのだ。
だが、そこまでならば、手練のライターがまとめあげた上出来の戦後日本外史である。本書のスケールの大きさは(大風呂敷の広さは、といってもいい)そんなレベルをはるかに超える。謎の編集者Zが提起した人骨、沖縄戦の洞窟、蒙古襲来という三つの図像解読というミステリー的な趣向に始まり、戦後日本の王道ならぬ民道楽土の追求(つまりバブル崩壊に帰着する経済成長至上主義)を、古代日本の国家形成と民族的ルーツの探求へと直結するのである。恐るべし!吉田史観。同時に、香具師の口跡を思わせる語りのアクロバティックな名人芸も心ゆくまで堪能できる。
しかし、本書は最終章に至ってバブル崩壊以後の現実に切りこみ、アメリカのイラク戦争と歩調を合わせる小泉政権、石原都政の軍事立国と電子情報管理社会の実態をラディカルに抉りだす。それはホットな〈現在〉への批判であるとともに、アマテラス(農耕定住民)の支配によって流産させられたヒルコ(海洋漂泊民)の逆襲という、遠大な〈歴史〉の眺望にもとづく希望の表白でもある。