退屈な読書
- 著者:高橋 源一郎
- 出版社:朝日新聞社
- 装丁:単行本(253ページ)
- 発売日:1999-03-00
- ISBN-13:978-4022573759
- 内容紹介:
- 死んでもいい、本のためなら…。すべての本好きに贈る世界でいちばん過激な読書録。
その他の書店
ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、
書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。
ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。
ある時、私はふと「島」を書いてみたい、そんな衝動を持った。何かはわからなかったがともかく島だった。その島が自分の気持ちのいったい何を投影しているのか。それも見えなかった。それからしばらくたって島は徐々に言葉に置き換えはじめられていた。……。書き終えてのちも、その島の暗喩するもののすべて見えてきたというわけでもない。ただその島はこの二十年の旅の中で次々と無残な喪失を眼前にさらしつづけていったことだけは、私はよく知っている。そして、その島(ヒト・感情・関係・場所・時間・生死・輪廻・沈黙・想像・そして僕)のおそらくエントロピーの最後的なる熱死地帯としてのあの日本のニュータウン。
それを見つめる私ののどもとから不意に微温の血がせり上がり、頭部をわずかに加熱しているのを覚える。
冬、寒風吹きすさぶ荒涼とした場所に、春には緑の衣をうち掛け、白く輝くシャムロックの花をちりばめ、夏には燦々(さんさん)とした陽光でその場のすべてを輝かせ……。
ところが島に居ついて半年ほど経ったある日、ワシのそんなかたくなな気持ちを打ち砕くような出来事が起きた。そう、あれは春も間近い三月の終わりのことだったな。