書評
『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪パーフェクトBOOK』(講談社)
妖怪ブーム
今年は、妖怪の本が例年以上に並んでいたような気がする(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2007年)。本屋さんの子ども向けの売り場に行くと、妖怪コーナーができているほどだった。ちょっとしたブームのようだ。夏に買った『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪パーフェクトBOOK』を熟読し、息子も今やちょっとした妖怪博士だ。
「座敷童子(わらし)」や「海坊主(ぼうず)」「雪女」など、よく知られたものから、「陰摩羅鬼(おんもらき)」「毛羽毛現(けうけげん)」など、どう読むのかもわからないようなものまで、百以上の妖怪が紹介されている一冊。ユニークなのは、ブキミ度や凶暴(きょうぼう)度、迷惑度、ひょうきん度などが示されているところだ。妖怪すべてが、ブキミで凶暴で迷惑というわけではないらしい。
息子は、この本を持ち歩き、会う大人会う大人、誰彼かまわず「読んでえ~、これ、読んでえ~」と、しつこく迫っていた。その様子は、まさに小さな妖怪だ。迷惑度とひょうきん度のやや高い、「読んで読んでオバケ」といった感じ。
久しぶりに私も一緒にページをめくると、「あまのじゃくは、はんたいのことばっかりいうから、いらいらするの。いやみは、仙台にいるんだよ。あと、タンコロリもね」などと、すっかり頭に入っている。
……今、この原稿を書いているところに「博士」が、やってきた。そしてパソコンの画面をじーっと見つめ、「タンコロリじゃないよ。タンコロリン!」との指摘。あわてて本で確認すると、確かにタンコロリンである。失礼しました。
「えーっと、じゃあ、ものすごーく、くさいのは何だっけ?」
「ぬっぺふほふ、のこと?」
そうそう、この、ぬっぺふほふ、というのが、私にはどうしても覚えられない。
あるときは、「おかあさん、おきなわにいったことある?」と思い詰めたような顔で聞いてきた。
「何回も、行ったけど」
「えっ、じゃあ、キジムナーに会った?」
息子は、キジムナーが一番好きなのだそうだ。ひょうきん度は、4(最高点)。丸っこい、かわいらしい妖怪だ。
「おきなわにしかいないんだって。がっかりだよ」
「いや、沖縄に行っても、必ず会えるとはかぎらないと思うけど……子どもにだったら、見えるのかなあ」
「たくみん(息子の愛称)は、キジムナーがいたら、ぜったい、わかる。おかあさんにも、おしえてあげる」
息子はまだ、飛行機にも乗ったことがないのだが、いつか一緒に沖縄に行こうねと、約束している。
「まず、がじゅまるの木をさがさなくっちゃ。木の下で、たきびをするとよろこぶんだって」
はたして、キジムナーには会えるだろうか。目には見えなくても、心には見えるかもしれない。そもそも妖怪というのは、そういうものだろうから。
キジムナーに会いたいと言うキジムナーもたぶんおまえに会いたいだろう
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2007年12月20日
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