書評

『遠野物語』(KADOKAWA)

  • 2024/12/09
遠野物語 / 鯨庭/原作:柳田国男
遠野物語
  • 著者:鯨庭/原作:柳田国男
  • 監修:石井 正己
  • 出版社:KADOKAWA
  • 装丁:コミック(216ページ)
  • 発売日:2024-09-20
  • ISBN-10:4046059273
  • ISBN-13:978-4046059277
内容紹介:
雪女、ザシキワラシ、天狗、河童、オクナイサマーー遠野の郷に伝わるさまざまな民間信仰や伝承を収めた『遠野物語』。遠野地方出身の佐々木喜善が語り、柳田国男が筆記し、現地での調査を経て… もっと読む
雪女、ザシキワラシ、天狗、河童、オクナイサマーー遠野の郷に伝わるさまざまな民間信仰や伝承を収めた『遠野物語』。遠野地方出身の佐々木喜善が語り、柳田国男が筆記し、現地での調査を経て編纂する形で出版された。
日本人の死生観や自然観が凝縮され、「日本民俗学の出発点になった」とも称される作品を大胆コミカライズ。「オシラサマ」「河童」「狐」「御犬」といった神や妖怪・動物たちの物語を四篇結び直し、現代に蘇らせる。

■「馬と花冠」ーーオシラサマ
その昔、ある娘が馬と恋に落ちた。その恋の行方は……?
東北地方に古くから伝わるオシラサマ信仰。オシラサマは養蚕の神、狩りの神、女性の病気の神、よいことやわるいことを知らせてくれる神などとして崇められている。その由来の物語。

■「河童の子」ーー河童
ある村の娘が河童の子を生んだ。河童の子の運命は?
今日でも誕生したばかりの赤ちゃんに関する悲しいニュースが後を絶たない。子どもの命をどう考えるかは、最も重要な課題である。現代にまで続く、『遠野物語』が描き出す人間社会の姿。

■「狐は夢」ーー狐
船越にとても仲の良い夫婦がいた。夫の漁師が吉里吉里へ出かけたが、その帰りが遅くて妻は心配になり……。
その昔、狐は人間に化けて人を騙すと信じられていた。また、思いが募るとすぐに浮遊してしまう魂の「軽やかさ」を描いた、二重に怪しい物語。

■「おおかみがいた」ーー御犬
『遠野物語』が発刊された明治末期には、ニホンオオカミはすでに絶滅していたが、遠野あたりでは御犬と呼んだ狼の話が伝わった。御犬の経立は年を取った狼のことで、特に恐れられた。
なぜ、御犬は滅びることになったのか。人間と自然の関係が失われ始めた頃の物語。
柳田国男は岩手県遠野を旅し、多くの民話を蒐集した。それを明治四三(一九一○)年『遠野物語』として出版。柳田民俗学の幕開けだ。

山里の人びとは、雪女、天狗、河童、座敷わらし、山男・山女など異界の存在を語り継ぐ。文明開化と対極のアルカイックな想像世界だ。柳田はそれを丁寧に記録して行く。

鯨庭(くじらば)氏はそんな懐かしい民話の世界をマンガに再現する。取り上げるのは、オシラサマ、河童、狐、ニホンオオカミの四話。原作を巧みにアレンジした幻想的な描画がまばゆい。古典がいまの時代に甦(よみがえ)った。

オシラサマは馬に恋した娘の話。病弱な小馬をいたわり育てた娘はやがて馬と結ばれる。怒った父親が馬を殺すと馬の頭と娘は天に昇って神となる。遠野を代表する物語だ。

柳田民俗学は、仏教を無視し皇国思想とも一線を画するのが特徴だ。たぶんグリム兄弟の仕事をヒントに日本の精神史を解明する。吉本隆明『共同幻想論』に示唆を与えた。

本書は世界の名著をコミックでリメイクする野心的シリーズの一冊。『猫語の教科書』に続く第二弾だ。マンガという共通語で世界に打って出るという。これは注目である。
遠野物語 / 鯨庭/原作:柳田国男
遠野物語
  • 著者:鯨庭/原作:柳田国男
  • 監修:石井 正己
  • 出版社:KADOKAWA
  • 装丁:コミック(216ページ)
  • 発売日:2024-09-20
  • ISBN-10:4046059273
  • ISBN-13:978-4046059277
内容紹介:
雪女、ザシキワラシ、天狗、河童、オクナイサマーー遠野の郷に伝わるさまざまな民間信仰や伝承を収めた『遠野物語』。遠野地方出身の佐々木喜善が語り、柳田国男が筆記し、現地での調査を経て… もっと読む
雪女、ザシキワラシ、天狗、河童、オクナイサマーー遠野の郷に伝わるさまざまな民間信仰や伝承を収めた『遠野物語』。遠野地方出身の佐々木喜善が語り、柳田国男が筆記し、現地での調査を経て編纂する形で出版された。
日本人の死生観や自然観が凝縮され、「日本民俗学の出発点になった」とも称される作品を大胆コミカライズ。「オシラサマ」「河童」「狐」「御犬」といった神や妖怪・動物たちの物語を四篇結び直し、現代に蘇らせる。

■「馬と花冠」ーーオシラサマ
その昔、ある娘が馬と恋に落ちた。その恋の行方は……?
東北地方に古くから伝わるオシラサマ信仰。オシラサマは養蚕の神、狩りの神、女性の病気の神、よいことやわるいことを知らせてくれる神などとして崇められている。その由来の物語。

■「河童の子」ーー河童
ある村の娘が河童の子を生んだ。河童の子の運命は?
今日でも誕生したばかりの赤ちゃんに関する悲しいニュースが後を絶たない。子どもの命をどう考えるかは、最も重要な課題である。現代にまで続く、『遠野物語』が描き出す人間社会の姿。

■「狐は夢」ーー狐
船越にとても仲の良い夫婦がいた。夫の漁師が吉里吉里へ出かけたが、その帰りが遅くて妻は心配になり……。
その昔、狐は人間に化けて人を騙すと信じられていた。また、思いが募るとすぐに浮遊してしまう魂の「軽やかさ」を描いた、二重に怪しい物語。

■「おおかみがいた」ーー御犬
『遠野物語』が発刊された明治末期には、ニホンオオカミはすでに絶滅していたが、遠野あたりでは御犬と呼んだ狼の話が伝わった。御犬の経立は年を取った狼のことで、特に恐れられた。
なぜ、御犬は滅びることになったのか。人間と自然の関係が失われ始めた頃の物語。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年10月26日

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