書評

『新装版 マンガ日本の歴史25-大日本帝国の成立』(中央公論新社)

  • 2024/06/03
新装版 マンガ日本の歴史25-大日本帝国の成立 / 石ノ森 章太郎
新装版 マンガ日本の歴史25-大日本帝国の成立
  • 著者:石ノ森 章太郎
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(457ページ)
  • 発売日:2022-04-20
  • ISBN-10:412206967X
  • ISBN-13:978-4122069671
内容紹介:
一八九〇(明治二三)年、東洋初の憲法の下での最初の衆議院議員総選挙が実施された。選挙の結果は反政府派の民権派議員が過半数の議席を獲得。帝国議会は、打倒藩閥政治を叫ぶ民党と政府が正面… もっと読む
一八九〇(明治二三)年、東洋初の憲法の下での最初の衆議院議員総選挙が実施された。選挙の結果は反政府派の民権派議員が過半数の議席を獲得。帝国議会は、打倒藩閥政治を叫ぶ民党と政府が正面衝突し対立を繰り返した。両者が歩み寄る機会となったのは、九四年に開戦を迎えた日清戦争だった。日清戦争後、列強の利益獲得競争は清国ばかりでなく韓国にも及び、とりわけ日本とロシアがしのぎを削った。独立自衛のための生命線確保を目指し大陸への膨張政策を取り始めた日本にとって、大国ロシアの南下政策が大きな脅威となっていく。その状況下、日本はロシア牽制のため英国との同盟を模索するが……。
原案執筆・伊藤 隆

〈目次より〉
序 章 初めての総選挙
第一章 アジア初の議会政治
第二章 列強と日清戦争
第三章 内外の戦後経営
間 章 義和団、跳梁す
第四章 日露戦争前の日本
第五章 日露戦争と戦時下の日本
第六章 近代化・産業化への歩み
解説 武田知己

名もなき民衆が生き生きと

リアリティとイマジネーションをミックスし、一から万の齣(こま)であらゆる事象を表現するメディア――これこそ「萬画(まんが)」だと、石ノ森章太郎は高らかに宣言する。そして「マンガ日本の歴史」四十八巻に加えて、「現代篇」七巻を完成させた。議会開設から大正デモクラシーまでに三巻、昭和戦前期に二巻、占領から高度成長までに二巻という配分は、現代史を描くのに適当と思われる。

実は中・高校生がよく読む「学習マンガ」を含めて、これまでの歴史マンガでは、民衆や社会の動きをヴィヴィッドに描き出すのに対して、権力者やハイ・ポリティクスの動きを捉(とら)えるのに難があった。えてして民衆=善、権力者=悪といった単純な善玉悪玉史観に陥りがちだったからである。

石ノ森の「現代篇」は伊藤隆の原案を得てその難点を克服すべく試みている。全体を通して、演劇・映画・流行歌の挿入で社会背景を明らかにし、名もなき民衆の会話で各時代固有の歴史事象を解説し、権力者相互の議論で一枚岩ではなく複雑な対立の構造をもつ政治の動きを考案するという、三つのパターンから成る。しかもそれらを固定せず、時代に応じて自由自在にミックスするのが、石ノ森の「萬画」における力量の見せどころなのだ。

ハイ・ポリティクスの面では、初期議会における藩閥と民党との対立から妥協の過程を描いた一巻が、「萬画」としての筋が通り見事である。また日中戦争から太平洋戦争をテーマとした五巻では、伊藤隆発掘の「石射猪太郎日記」などの新資料がふんだんに使われており、「萬画」の実証性を見る思いがする。

だがそれにしても、石ノ森の作画が「サイボーグ009」以来のタッチで最も生き生きするのは、名もなき民衆を描いた場面である。権力者は明治期を除けば、おしなべて無個性であり魅力に乏しい。果たしてそれは、メディアとしての「萬画」の限界なのか、それとも我々自身の「歴史」の限界なのであろうか。
新装版 マンガ日本の歴史25-大日本帝国の成立 / 石ノ森 章太郎
新装版 マンガ日本の歴史25-大日本帝国の成立
  • 著者:石ノ森 章太郎
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(457ページ)
  • 発売日:2022-04-20
  • ISBN-10:412206967X
  • ISBN-13:978-4122069671
内容紹介:
一八九〇(明治二三)年、東洋初の憲法の下での最初の衆議院議員総選挙が実施された。選挙の結果は反政府派の民権派議員が過半数の議席を獲得。帝国議会は、打倒藩閥政治を叫ぶ民党と政府が正面… もっと読む
一八九〇(明治二三)年、東洋初の憲法の下での最初の衆議院議員総選挙が実施された。選挙の結果は反政府派の民権派議員が過半数の議席を獲得。帝国議会は、打倒藩閥政治を叫ぶ民党と政府が正面衝突し対立を繰り返した。両者が歩み寄る機会となったのは、九四年に開戦を迎えた日清戦争だった。日清戦争後、列強の利益獲得競争は清国ばかりでなく韓国にも及び、とりわけ日本とロシアがしのぎを削った。独立自衛のための生命線確保を目指し大陸への膨張政策を取り始めた日本にとって、大国ロシアの南下政策が大きな脅威となっていく。その状況下、日本はロシア牽制のため英国との同盟を模索するが……。
原案執筆・伊藤 隆

〈目次より〉
序 章 初めての総選挙
第一章 アジア初の議会政治
第二章 列強と日清戦争
第三章 内外の戦後経営
間 章 義和団、跳梁す
第四章 日露戦争前の日本
第五章 日露戦争と戦時下の日本
第六章 近代化・産業化への歩み
解説 武田知己

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 1994年8月16日

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