書評
『少年西遊記 1』(河出書房新社)
ああ、これだ、これだ!
はるかな昔、まだ紅顔の少年時代に愛読してやまなかったもの、それが杉浦茂の漫画であった。ザラザラの紙に印刷された「おもしろブック」などの漫画雑誌に掲載された杉浦漫画の味わいは、私ども団塊の世代には共通の記憶に違いない。しかし、書誌学者として観察すると、こうした大衆的な漫画雑誌などは、概ね読み捨てで、大事に保管する人などは皆無に近いから、今日ではそのオリジナルの姿に接することは極めて難しい。
しかるに、河出文庫から出ている『少年西遊記』は、そのオリジナルの「おもしろブック」版を、そのまま復刻し、不鮮明な吹き出しの文字などを再刻したというもので、その後に単行本の形でリライトされたものとは違い、まったく私どもが日々に愛読した、あの杉浦漫画のナンセンスにしてシュールなる世界が、寸分違わず復刻されている。
『西遊記』といっても、中身はまるで杉浦独特の世界で、その強烈なユーモアと、新奇でグロテスクな画像は、私たちの心を惹きつけて止まなかった。それからもう五十年以上も経つのに、女怪物「らせつ女」の手下が、三蔵法師の一行にミミズのラーメンを喰わせようとする場面など、今でもくっきりと覚えているから、そのところに出くわしたとき、私の心は直ちに半世紀の昔に戻っていくことができるのであった。
オリジナルの雑誌版による復刻とあって、そのタッチの荒々しさも含めて、これぞ杉浦ワールドという、圧倒的な味わいがあったが、おしむらくは文庫本なので小さい。されば、こういうものこそ、原寸で再現できる電子出版に真向きのものだと思うのである。
初出メディア

スミセイベストブック 2012年9月号
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