書評

『少年西遊記 1』(河出書房新社)

  • 2024/03/31
少年西遊記 1 / 杉浦 茂
少年西遊記 1
  • 著者:杉浦 茂
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:文庫(240ページ)
  • 発売日:2003-03-01
  • ISBN-10:4309406882
  • ISBN-13:978-4309406886
内容紹介:
皆さんおなじみの孫悟空でござい。これからぼくの奇妙奇天烈な大暴れぶりを、お目にかけることになったので、応援よろしく。漫画の神様手塚治虫も熱狂した杉浦版西遊記がはじめて連載当時の姿で完全復活!

ああ、これだ、これだ!

はるかな昔、まだ紅顔の少年時代に愛読してやまなかったもの、それが杉浦茂の漫画であった。ザラザラの紙に印刷された「おもしろブック」などの漫画雑誌に掲載された杉浦漫画の味わいは、私ども団塊の世代には共通の記憶に違いない。

しかし、書誌学者として観察すると、こうした大衆的な漫画雑誌などは、概ね読み捨てで、大事に保管する人などは皆無に近いから、今日ではそのオリジナルの姿に接することは極めて難しい。

しかるに、河出文庫から出ている『少年西遊記』は、そのオリジナルの「おもしろブック」版を、そのまま復刻し、不鮮明な吹き出しの文字などを再刻したというもので、その後に単行本の形でリライトされたものとは違い、まったく私どもが日々に愛読した、あの杉浦漫画のナンセンスにしてシュールなる世界が、寸分違わず復刻されている。

『西遊記』といっても、中身はまるで杉浦独特の世界で、その強烈なユーモアと、新奇でグロテスクな画像は、私たちの心を惹きつけて止まなかった。それからもう五十年以上も経つのに、女怪物「らせつ女」の手下が、三蔵法師の一行にミミズのラーメンを喰わせようとする場面など、今でもくっきりと覚えているから、そのところに出くわしたとき、私の心は直ちに半世紀の昔に戻っていくことができるのであった。

オリジナルの雑誌版による復刻とあって、そのタッチの荒々しさも含めて、これぞ杉浦ワールドという、圧倒的な味わいがあったが、おしむらくは文庫本なので小さい。されば、こういうものこそ、原寸で再現できる電子出版に真向きのものだと思うのである。
少年西遊記 1 / 杉浦 茂
少年西遊記 1
  • 著者:杉浦 茂
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:文庫(240ページ)
  • 発売日:2003-03-01
  • ISBN-10:4309406882
  • ISBN-13:978-4309406886
内容紹介:
皆さんおなじみの孫悟空でござい。これからぼくの奇妙奇天烈な大暴れぶりを、お目にかけることになったので、応援よろしく。漫画の神様手塚治虫も熱狂した杉浦版西遊記がはじめて連載当時の姿で完全復活!

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

スミセイベストブック

スミセイベストブック 2012年9月号

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
林 望の書評/解説/選評
ページトップへ