イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』は全世界で2100万部も売れているそうだ。柴田裕之訳の日本版(河出書房新社)も100万部突破の大ベストセラー。
われらホモ・サピエンスがなぜ地上を制覇・支配するようになったのか、諸学問の現時点での成果から説明を試みる一般向け教養書である。歴史を人類の起源から現代まで大づかみする視点が魅力的だ。気候変動の影響が深刻化するなど混迷をきわめる今、スケールの大きな思考が求められているのだと思う。
とはいえ上下巻合わせて約600ページ。専門書と違って平易に書かれているけど、読破するのは一苦労。恥ずかしながらぼくも、途中で挫折して積ん読状態だった。
そこに救世主あらわる。昨年『漫画 サピエンス全史 人類の誕生編』(河出書房新社・2090円)が出たのに次いで、最近『同 文明の正体編』(同・2640円)が出た。原案と脚本はユヴァル・ノア・ハラリ自身で、脚本はダヴィッド・ヴァンデルムーレン、漫画はダニエル・カザナヴ。翻訳は前者が安原和見、後者が梶山あゆみ。
この漫画版が素晴らしい。まず、大きい! 絵がきれい! そして、楽しく、分かりやすい。眠くならない。面白くてためになる。
漫画版とあるけれども、たんに文章を漫画に置き換えたものではない。ハラリと姪のゾーイ、生物学者のサラスワティ先生をはじめ、さまざまなキャラクターが登場する。ときには推理小説のように、あるいはヒーローものコミックのように、場面はめまぐるしく展開する。読者を飽きさせない工夫がいっぱい。
漫画版を読み終えて、ふたたび文章版の『サピエンス全史』を読んだ。あーら不思議、こんどは書いてあることが頭にするする入ってくる!
ホモ・サピエンスは「虚構」を手に入れたため、大きな力を得ることになった、とハラリはいう。会社も国家もジェンダーも虚構。みんなが信じるのをやめれば、虚構は雲散霧消する。