書評
『ゲゲゲのゲーテ』(双葉社)
ゲゲゲのゲーテですよ。題もいい
水木しげるさんが亡くなった。93歳、たくさんの素晴らしい作品を残されて、悔いのない幸福な人生だったと思う(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2016年1月)。しかし、先生ご自身は110歳までは、この世にとどまって仕事するおつもりであったらしい。この本『ゲゲゲのゲーテ』の構成をされた左古文男氏は、実際、来年の仕事の約束もとりつけていたという。
校了の翌日転倒され、緊急入院だったそうだ。水木さんの最後の本になったわけだが、これが素晴らしい!
水木さんが亡くなって、テレビ、ラジオ、新聞、週刊誌、あらゆるメディアが、その作品や生涯を紹介したけれども、これほどみごとにまとめられた記事はなかった。
当然のことであって、この本は構成の左古氏が、長い年月にわたって水木さんの謦咳(けいがい)に接し、その作品にも人にも通暁していたことではじめて編集できた本だったからだ。
この本の著者は、水木しげる・水木プロダクション[編]であるけれども、その手柄は構成の左古文男氏のものであろう。
水木しげる×武良布枝インタビューが巻末に27ページある。この聞き手も左古氏である。過不足なく、水木さんの話されたいことを、最大限に聞きとっている。
トビラページに、水木さんではなく布枝さんの発言がおかれた。
「水木が好きなゲーテの言葉というのは健康的だという印象が残っています」。短い中にゲーテと水木さんがまるごととらえられている。
「水木サンの人生は80%がゲーテです。」という帯のコピーは、水木さん自身のものだ。以下は新聞のインタビューでの水木さんのコメント。
「遠からず、弾丸が飛び交う戦地に行くと思うと、“人生って何だろう”と探求したい気持ちがわき起こってきました。人生を深く考察するために本を読みあさった。ニーチェやカントやショーペンハウエルを読みました。聖書も読んだ。小説も山ほど手にしました。とりわけ『ゲーテとの対話』には生きていく上の基準が満載されていました」
私は、この本ではじめて、ゲーテの言ってるコトバに耳をかたむけた。読もうと思えば、いくらでもアクセスできたはずなのに。
ゲーテのコトバのうちから、水木さんが何かを感じたコトバ、おもしろいと選びとったコトバが、あつめられているところがミソだ。
箴言(しんげん)や名言をまとめた本は、いまでもたくさんあると思う。でも、いったん水木さんを通ってきたゲーテのコトバを読むのは、ゲーテのコトバをいきなり読むのとは全然違う。
編者の手柄と私が言うのはココです。ゲーテの言葉があり、そこに水木さんのコトバが並んでいる。こんな具合です。
才能があるというだけでは、十分とはいえない。利口になるには、それ以上のものが必要なのだ――ゲーテ
机に向かってるだけじゃダメなんだナ。楽しいことをやっているうちにクソがたまるようにアイデアもたまるんです。利口になるには、他人が捨ててしまったようなことやバカバカしいことにも詳しくなくちゃいかんのです――水木しげる
どうです? 読んでみたいでしょ。
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