書評
『爺さんになれたぞ!』(影書房)
朝は三時に起きる。時間をかけてのんびり、横浜の自宅から都内の仕事場へ。七時頃仕事場に着くが、仕事らしい仕事はしない。昼になると近くの食堂で焼酎のお湯割り三杯。夕食はさすがに粥(かゆ)か雑炊。
戦後六十年放浪を続けてきた詩人が、七十歳を越えて「爺(じい)さん」になった。爺さんは放浪生活で欲気も脂気(あぶらけ)もすっかり脱落しているから仙人に近い。仙人も達人になると深山幽谷にではなく、都会のド真ん中に生きているのだ。
なんの役にも立たない爺さんはだんだん世間の目から見えなくなってしまう。あげくは、ことばだけになって爺さんの「生活と意見」が放浪の日々に出会った坊さんや忍者や、かと思うと無銭飲食常習詐欺師や山中おこもりのご同類の思い出とともに語り出される。羽化登仙(うかとうせん)の足跡一歩一歩にことばの蓮華(れんげ)が咲く。
戦後六十年放浪を続けてきた詩人が、七十歳を越えて「爺(じい)さん」になった。爺さんは放浪生活で欲気も脂気(あぶらけ)もすっかり脱落しているから仙人に近い。仙人も達人になると深山幽谷にではなく、都会のド真ん中に生きているのだ。
なんの役にも立たない爺さんはだんだん世間の目から見えなくなってしまう。あげくは、ことばだけになって爺さんの「生活と意見」が放浪の日々に出会った坊さんや忍者や、かと思うと無銭飲食常習詐欺師や山中おこもりのご同類の思い出とともに語り出される。羽化登仙(うかとうせん)の足跡一歩一歩にことばの蓮華(れんげ)が咲く。
これといった者になれなくても、爺さんになれたら、それでよいではないか。
朝日新聞 2004年5月30日
朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。
ALL REVIEWSをフォローする


































